第14話 ロリ先生の潔癖と俺の初料理
手を洗ってリビングに戻ると、テーブルの上の辞書とノートはキレイに片付けられ、彼女は手を洗っていた。
「何やってたの?」
と俺が聞くと、
「語学勉強よ。私にも知らない日本語はまだまだあるから」
と彼女は言った。熱心に勉強なんてやっぱりすごいなぁ~と思っていると、彼女はハンドタオルで手を拭きながら、
「はい、あなたも手を洗って」
と言った。俺が驚いて、
「手なら、今洗ってきたばっかりだけど?」
と言うと、
「さっきのは手の菌を落とす手洗い、調理前は手を清潔にする手洗い。それとこれとは話が違うわ」
と言われた。間違っていないようで間違っている彼女の理屈に従い手を洗うと、
「今日はあなたにも夕飯の調理をしてもらうわ」
と言われた。何をするのかとちょっとドキドキしていると、乾麺を渡され、
「これを茹でて」
と彼女に言われた。
「それだけ?」
と聞くと、
「だって、あなたが本格的に料理なんてしたら絶対危なっかしいもの。少しずつ慣れていきましょ」
と彼女は言って、底の深い鍋に、計量カップで水を入れていった。そして火をつけると、
「お湯が沸騰...つまりブクブクしてきたら、それを入れて、すぐにお箸でかき混ぜて」
と言った。俺が返事をして鍋の前にスタンバイすると、彼女はピーマンを切り出した。その後、トマト、玉ねぎを切るところを見届けたものの、鍋のお湯はブクブクしなかった。しかし、なぜか目が異常に痛くなってきた頃にやっと、ブクブクし始めた。
「沸騰?したよ?」
「うん、そろそろ良いわね。箸を持ってきて」
俺は言われた通り箸を持ってくると、
「ちょっと!そんな短い箸使ったら火傷するわよ?!長い菜箸を使って」
と、ウインナーを切っている彼女に言われた。箸にも種類があるのか!と思いながら、俺が恐らく一番長いであろう箸を持って戻ると、鍋が泡でいっぱいになっていて、その泡が、いまにも溢れそうだった。俺がパニックになって、とりあえず、
「先生、鍋が...」
と言うと、彼女は
「わ!」
と言いながら火を弱めた。やっぱり料理はダメダメだ...と思いながら下を向くと、
「きゃっ」
という彼女の声がした。見ると、彼女は、水道水で腕を冷していた。どうやら、溢れたお湯がかかってしまったようだ。
「大丈夫?」
と聞くと、
「ええ、どうってこと無いわ。あ、そういえばね、火傷って、絆創膏を貼るよりも、治療薬を塗った後、外気に触れさせておくのが良いんですって」
と、彼女は明るいトーンで言った。その腕を見ると、一部が赤くなってしまっていた。火傷を負わせてしまったことに加え、失敗したと思わせないように明るいトーンで話させてしまったことに居たたまれなくなってしまった俺は、
「ごめん!」
と言って頭を下げた。すると彼女は、
「謝らないで。初めてのことを完璧にこなす人間なんていないんだから」
と言った後、
「まぁ、にしても散々だったけどね」
と笑いながら言った。何と言えばいいか分からず、言葉を探していると、
「さぁ、気を取り直して茹でましょう。今度は私が横で見ててあげるから」
と彼女が言ったので、助言をもらいつつ、乾麺を何本か床に落としつつ、麺を鍋にくっつかせつつ、何とか茹でることができた。その後、なんやかんやがあり、テレビを見て待っていた俺の前に運ばれてきたのは、ナポリタンだった。トマトの酸っぱい匂いがする。彼女も座ってから、
「いただきます」
と言って口に入れたそれは、ナポリタンってこんなうまい食べ物だったっけと思うほどに美味しかった。
「うまい!」
と言うと彼女が、
「自分で作った料理はおいしさが倍増するのよ。私も、初めて作った料理は、本当に美味しかった記憶があるの」
と言ったので、なるほどそりゃおいしい訳だと思いつつ、
「先生が初めて作った料理って何だったの?」
と聞くと、彼女は、
「ん~...忘れちゃった!」
と言って笑った。当然めちゃくちゃ可愛かったのだが、俺にはひっかかることがあった。彼女が一瞬、悲しみを含んだような表情をしたのだ。何か深い意味があるような気がして、それ以上は聞かないようにした。
その後、俺は皿を洗い、ピカピカだけどロマンの無い風呂に入り、柔軟運動をし、彼女に
「おやすみ」
と言って寝室に入った。ベッドに寝転がった後、スマホの電源を入れ、危うく動画アプリを開きそうになってから、小説サイトを開いた。
そして、小説の続きを読み終えた後、一つの疑問が生じた。小学の頃はまだしも、中学、高校と、周りに可愛いな、とか、顔が整ってるな、と思う人はいたが、それが恋愛感情に変わることは無かった。そんな俺が、どうして恋愛小説には入り込め、更には感情移入ができるのか。そんなことを考えている内に眠くなってきたので、答えが出ないまま、俺は就寝した。
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