第5話 カタルシスと起承転結は、別物か、それとも同じものなのか
この部分が、とりあえず、僕に創作論を書かせるきっかけ、と言えます。
何がきっかけだったか忘れましたが、ジョン・ル・カレの「寒い国から帰ってきたスパイ」という小説の存在を知って、いつか読もうと思っていて、いざ、手に入れて読みました。
この作品の捻り、カタルシスは、強烈な一撃が終盤にあり、「まさか」となるわけですが、そのカタルシスが、今までに読んできた小説のカタルシスと少し違う。いや、だいぶ違いました。ミステリだったら、こういうトリックだったのか、とか、まさかこの人物とこの人物がここで繋がっていたのか、というような捻りがありますし、ミステリに限らなければ、様々な伏線が終盤で回収されると、なるほど! とか、こういう構造だったのか! と、脱帽、みたいになります。
しかし「寒い国から帰ってきたスパイ」は、異質なカタルシスなのです。言ってしまえば、ありえない、という要素の積み重ねなんですね。それも、物理的にありえないとか、ではなく、言葉を探せば、整合性がない、というか、重要な前提が覆ってしまう。悪を倒すはずが、悪こそが味方なのか、しかし、そもそもの味方こそが悪なのか、分からなくなる。善意が善意ではなくなるような、とでもいえば良いか。静かに、指標、基準がめちゃくちゃになる。
このカタルシスは、混乱に近いのですが、話の筋がピタリと一本になるので、混乱は作品自体の不足などではなく、読者であるところの僕が、そのカタルシスを受け入れられない、受け入れ難い展開というまさにカタルシス、というわけです。この小説は是非、多くの人に読んでほしい。序盤は退屈ですし、中盤で徐々にスピードアップしますが、最後は本当に見事。
僕がこのカタルシスという要素を意識する上で、いつも頭にあるのは、浅井ラボさんの「捻った後にもう一度、捻る」という言葉です。たぶん、ブログか何かで見ましたが、これはいつも考えます。どういうものが「捻った後に捻る」なのかと言われると、浅井ラボさんの「されど罪人は竜と踊る」のアナピヤ編の最後の場面が、まさにそれです。ガガガ文庫版だと、ちょっとそこにたどり着くまでに巻数がありますが、もしよろしければ、そちらも読んでみてください。
僕が創作をするのにあたっては、この捻りの要素は、プロットにおおよそ組み込んでいます。ただ、序盤から伏線を巡らせる、ということはできないですね。そこが技術的に未熟なところかもしれません。短編では、この手のテクニックはまだうまく使えるような気がしますが、はっきりとはしません。とにかく、最初に浮かんだ着地点をじっと考えて、そこからもう一度、跳ねさせて落とす、ということを考えるしかありません。
カタルシスは起承転結とは、微妙に違う要素かな、と僕は感じています。カタルシスは常に必要で、ストーリーの起伏とは別の問題です。これは桜庭一樹さんがエッセイで書いていましたが、浅田次郎さんだったか、雑誌の連載になると、毎回、見せ場を作らなくちゃいけない、という趣旨の話をしていた、というのです。この見せ場が、つまり「カタルシス」かな、と僕は考えています。カタルシスとは「想定外」や、そもそも「驚き」だけではなくて「安堵」でも良いし、もしかしたら「緊張」でも良いのかもしれない。ただ、物語の最後に一番大きな衝撃を持ってくるのは、当然ですが。
起承転結は多くの創作論において重要視されますが、僕自身は書いていて、あまりそれは意識しないでいます。カタルシス、緊張と安堵の連続があれば、それでいいかな、という軽い感覚です。つまり起承転結よりも、まずは読者を引っ張っていく力、牽引力が求められる、というところに注力しているわけです。あるいはこれが、未熟さかもしれません。ただ、起承転結に関して「気づき」を得た場面はあります。
詳細はまた後日になりますが、とある公募に送って、いいところまで進んだ長編で、僕は何を思ったか、主人公とヒロインが喧嘩別れする、というようなシーンを中盤に挟みました。その後に二人は仲直りして、より一層の力を手に入れて強敵と対決する、というストーリーです。僕はこの「喧嘩別れ」が実は、起承転結の中の一部なのかもな、と不意に気づいたわけです。起承転結というのは、カタルシスはカタルシスでも、もっと物語の筋に深く食い込む、ダイナミックな、スケールの大きい捻りなのかもしれません。もちろん、僕の勘違いということもあります。
このカタルシス、捻り、起承転結は、全ての物語に通底する、奇妙な要素という気もしますが、さて、皆さんはどう考えるでしょうか。その要素が何に宿ると考えるか、が、創作活動の幅と同時に、個性の現れる部分かな、とも感じますね。ストーリーで示す人、キャラクターで示す人、世界観で示す人、それぞれです。
次には、どこからアイディアを得るか、という話、アイディアの使い方の個人的な雑感に触れます。
では、次回に続きます。
オススメ曲
乃木坂46「Sing Out!」
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