バージョン6.3 巨乳万歳

 スマートシティーにおいて、最も人気のある娯楽は格闘技。何かと機械化されているなかで、肉弾によって勝負を決する潔さが高評価。特にボクシングは低ランカーが高ランカーを負かすことも多い。チャンピオンには、副賞として世界旅行が贈られることもしばしば。



 清たちには、エレベーターが上へ昇ったのか下へ降りたのかさえ分からない。だが、ドアが開き降りたところを清は見覚えがあった。


「大きい建物の中……。」


 しばらく歩いたところには、らせん階段があった。清は、まだ不安がる2人を励まして昇らせた。そして清は予想通り、便所掃除係専用休憩室にたどり着いた。


「ひっ、広ーいっ!」

「視界良好!」

「ここでなら、時間を気にせずにゆっくり待てるよ!」


 ゆっことまなこは、清と一緒に便所掃除がしたいと言い出した。清は快諾して、3人で2つの便器を磨いた。それはそれは、ピカピカになった。清は、先に2人でシャワーを浴びるように言った。2人は快諾して、シャワー室に入った。


「ふぅーっ! ゆっこもまなこも思ったより良い子だね!」

「そうですか? 単に清様を利用しようとしてるだけに、決まってます」

「そんな言い方しないでも良いじゃん!」

「はぁーあ。清様はいつも住人の肩をもたれるのですね」

「まぁね。でも、ここからどうやって過ごせば良いのかなぁ……。」

「そうやって、困ったときにはいつも私を頼るんですから!」

「AIって、そういうもんだろう!」

「たしかにそうですね。分かりました。策を授けましょう! (ひと肌脱いで!)」

「おぉっ。AI、ありがとう!」


 AIは天気予報を清に示した。それは、日没前には雨が上がるが、西側に厚い雲があって夕陽を眺めるのは今日は無理だが、ギリギリまで粘れば満点の星空が眺められる、というものだった。だから安易に引き揚げず夜までここに留まるようにするのが良いというのだ。清は夜になったらどうするんだろうと考えてときどき鼻の穴を膨らませながらそれを聞いた。


「良いですか。キーワードは情熱です。女性は熱意ある男に惹かれますからね!」

「分かった。俺の便所掃除に対する情熱を、2人にぶちまけるよっ!」

「……。」


 直後、ゆっことまなこは同時にシャワー室から出てきた。清もシャワーを浴びたあと、雨が止んだので3人で下へと降りた。だがAIの言う通り西に厚い雲があり、夕陽を見ることは叶いそうにない。


「清くん、ごめんなさい」

「折角付き合ってもらったのに……残念無念!」

「いや、もう少し待とうよ。照明があるからさ」


 ゆっことまなこは目を疑った。清が言うように、立派な照明が4台も置いてあったのだ。かなり大きくて、1台だけでも充分な光の量を発することができる。


「私たち、2人とも歌が大好きなの!」

「将来は、歌手志望!」

「そうなんだ。2人のルックスなら、直ぐにアイドル歌手になれるんじゃないの?」

「それはどうも、無理そうなのよ……。」

「アイドルに向いているのは、清楚可憐!」

「たしかに。2人ともセクシーだもんね。おっぱいが大き過ぎるのかなぁ……。」

「でも、それが原因とは認めたくないのよ」

「おっぱいは大きいに越したことないもの。巨乳万歳!」

「なるほど。俺も同意見だよ。巨乳万歳! (女子と一緒に叫べるなんてっ!)」


 そうこうしているうちに、あたりは真っ暗になっていった。

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