バージョン5.5 穴着

 スマートシティー黎明期に存在した2つの評価システム『ブランキング』と『ブランブランキング』。この2つが融合してできたのが現在の評価システム『ランブランキング』。スコアを判定するのは、このシステムである。



 海開き恒例、椅子取りゲームで優勝を果たした清。午後の便所掃除へと向かおうとした。そこに美穂がはなしかけてきた。その背後には、準穴勝で美穂たちと一緒に敗退した2人が控えていた。3人とも恥ずかしそうにもじもじしている。


「清くん。さっきの約束なんだけど……。」

「あぁっ。いつでも言って!」

「じゃあ今直ぐに、私を膝の上に乗せて!」

「お安い御用さ!」


 清は、まだ片付けられていない椅子に座った。美穂は清に跨り、その膝の上に鎮座。次いで、背後にいた2人が清の膝小僧にちょこんと腰を下ろした。


「こんな約束、したっけ?」


 清がおっぱいに顔を埋めながら苦しい振りをして行った。


「したわよ。まさか先を越されるとは思っていなかったけど……。」

「き、清くん……動かないでよ! あぁん!」

「そ、そうですよ! あんまり動くと……んんっ! はぁはぁ……。」

(いやいや。俺そんなに動いていないけど……。)


 奇跡のオブジェが再現した。直ぐにみんなの目を惹いた。当然、さくらにも見つかった。


「ずるーい! そうだっ! みんなで並ぼう!」


 その号令で、さくらを先頭に20人が並んだ。その列には、まりあっぷのうちまりあを除く4人の姿もあったが、まりあはいなかった。

 まりあは苦しんでいたのだ。


(あぁ! うるわしい清様……私には貴方の気を引く何もないわ……。)


 物陰に隠れて清を見ながら、まりあは思った。奇跡のオブジェを完成させたその瞬間から、まりあのドキドキは止まらなくなった。清を見てはドキドキ。清から離れると清を思ってしまいドキドキ。その感情の正体を、まりあは認識していた。SNSを通してファンから送られてくる相談事の大半が訴えている感情と同じだということを。だから、どうすれば良いのかも本当は分かっていた。勇気をもって、最高の笑顔を相手に向ければ良い。それが、まりあがファンに繰り返し説いてきた解決策だ。

 だが、その勇気がまりあにはなかった。


(私って、こんなにも臆病だったのね……。)


 まりあっぷの活動はダイエットや体型改善の応援が主流。その動機の多くが恋愛絡みなので、まりあは一部のファンからは恋愛教祖と呼ばれている。まりあには、その自覚があった。この世の誰よりも恋愛という駆け引きを有利に進めることができるという自信があった。だが、それは最早、過去のものだった。


(混ざりたい。私、もう1度、清くんと奇跡のオブジェとなしたい……。)


 その思いが通じたのか、まりあを遠くから呼ぶ声がした。


「まりあさーん。1人足りないんだーっ! 手伝ってー!」

「はっ、はい。ただいま!」


 まりあを呼んだのは、清だった。

 まりあは、自分の中に芽生えたはじめての恋心を大切に育てることを穴心した。そしてまりあっぷの他のメンバーや取り巻きと共に、清と一緒に便所掃除をすることにした。


 こうして、清はまりあっぷの攻略に成功した。

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