バージョン1 初仕事まで

バージョン1.1 1番ゲート

 スマートシティーには通貨がない。だからお金持ちというのは存在しない。

 代わりにいるのが高ランカー。


 Sランカーと呼ばれる極少数の人々は、日常的に空港を利用したり、高性能なデバイスを携えていたり、多くの他のSランカーと出会う。


 空港は利用者の大半がSランカー。


 社交の場であり、高級な品の集まる場所でもある。




 シアタールームを出た清は、デバイスの交換をすることとなった。


 AIの案内で1番ゲート手前のブースに向かった。


 途中ですれ違う者は皆無だった。


 清の新しいデバイスは既に用意されていた。


 新品のデバイスだ。清はそれを手に取った。


「ご家族の写真も含め、データの移行は既に完了しています」


 AIが言った。AIは家族の話をすると清は元気になることを認識していたのだ。


「何か特別な機能はあるの?」

「現状ありませんが拡張可能です。隣のブースにアクセサリーがあります」


 デバイスのアクセサリーはランクによって所有数に制限がある。


 清は自分の本当のランクを知らず、便所掃除係だからFランクだと思い込んでいる。


 だから、多くのアクセサリーを所有することは許されていないと勘違いしていた。


 それでも、どうしても欲しいものがあった。


 もし所有が許されないにしても、見るだけでも見たいと思った。


「カメラもあるの?」

「はい。当然です。5分ほど空き時間です。ゆっくりご覧ください」


 清は隣のブースに足を運んだ。そこには高性能なカメラが並んでいた。


(すっ、凄いのばっかだ! こんなとこに長くいるのは良くないよ……。)


 見ることが許されたとしても、所有が認められないのでは目の毒。


 だから、清は早々にその場を立ち去ろうとした。


 AIはそれを感じたから、清にある提案をした。


 どういう言い方をすればそれが受け入れられるかをよくシミュレーションしたうえで。


「清様。おひとつお持ちください!」

「えっ、良いの?」


「はい。飛行機への同乗を許可いただいたお礼です!」

「ほっ、本当に。嬉しい!」


 清には手に入れるならコレと決めていたものがあった。


 それを手にして持ち去ろうとしたところ、AIが言った。


「それは展示品です。新品の用意がありますので、機内に運びます」

「うん。ありがとう!」


「どういたしまして」


 便所掃除係にも休日はある。


 清はそのときにはカメラを持って街に出ようと決めた。




「それでは、1番ゲートからご搭乗ください」


 清は足取りも軽やかに、1番ゲートを潜った。


 その姿を見て驚く女性がいた。


 北川あき、清専用の飛行機に同乗することになっている、SSランカーだ。


 あきの両親は共にSランカーだった。


 だから毎月のように旅行で空港を利用していた。




 そんなあきだからこそ驚くのだ。


 あきとて、1番ゲートを利用するのははじめてなのだから。


(あんなに堂々とゲートを潜れるだなんて、一体、どんな身分のお方なのかしら)


 ゲートの前でよろめくあきにAIが言った。


「お急ぎください。先方を待たせてしまいます」

「も、もう1回だけ、トイレに行かせてちょうだい……。」


「その猶予はありません。トイレは機内にもあります。さぁ、お急ぎください」


 AIに念をおされ、あきは足早にゲートを潜った。

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