スマートシティー物語

世界三大〇〇

ベータ版 プロローグ

ベータ版① 御手洗清の旅立ち

 AIと高速通信とロボティクスにより、人類が全く新しい都市を築いて800年。


 それは、病気なし、労働なし、食糧難なしという理想郷。


 高度に発達した楽園都市を、人々はスマートシティーと呼んだ。




 この物語は、1人の男の記録である。

 物質的に豊かなスマートシティーを、本当の意味での理想郷たらしめた男の数年間を通して、その原動力となった愛と信頼と少しのエロを余すところなく小説化したものである。






 スマートシティー東京20.20。


 教育支援・余暇観光などを兼ねる複合型都市。


 その一角に御手洗夫妻が居を構えていた。


 夫妻は2人の子供、清と麗を育てた。




 清は夫妻とAIに見守られすくすくと育ち、この日、16歳の誕生日を迎えた。


 そして、青春謳歌型都市へと旅立つことになっていた。




 清は既に友人には別れを告げていた。


 生まれ故郷の東京で最後に一緒に過ごすのは家族と決めていたからだ。


 御手洗一家は、家族総出で清を送った。


「清にぃ! 元気でね」

「うん。麗も、父さんと母さんの言うことをよく聞くんだぞ!」


 寂しそうに別れを告げる麗に、清は親愛の意を込めて頭をぽんぽんと撫でて応えた。


 麗はこの地域では評判の美少女だが、同時に評判のブラコンでもある。


 生まれつき身体が弱かった麗は、清に面倒を見てもらうことが多かった。


 それがきっかけでブラコンになったのだ。


 麗から見た清は保護者であり、最良の遊び相手・相談相手だった。




 麗が3歳の頃、清は大きなくまのぬいぐるみをプレゼントした。


 以来12年以上、麗はそれを片時も離したことがない。


 今では麗のトレードマークになっていた。




 そんな麗の身体から、大きなくまのぬいぐるみが離れた。


 いつのまにかたわわに実った麗のおっぱいが、支えを失いぷるるんと揺れた。


「これ、持っていって!」


 清の旅立ちを1番不安に思っているのは、麗なのだ。


 麗は、自分1人が取り残されてしまうように感じていた。


 それでも独りで暮らすことになる清のことを思い大切にしていたものを差し出したのだ。


「ありがとう。大切にするよ!」


 清は麗の気持ちを察し、器用にそれを抱え、もう1度、麗の頭をぽんぽんと撫でた。


 その親愛の意は充分に麗に伝わった。




「落ち着いたらでいいから、連絡するのよ」

「あぁ、もちろんだよ!」


「清、人間は1人では生きられないものだ。御近所さんと仲良くな」

「分かってるって!」


 別れは惜しいものだが、時間がない。


 清の前に1台の車が停まった。今でいう大型バス。


 この時代、車は全て自動運転で、乗り合いになることが多い。


 だから、あまり長く待たせることができない。


 清は慌ててしまい、そのあまりの大きさには気付かなかった。




「父さん、母さん! 今までありがとう。麗、元気に暮らすんだぞ!」


 バスに乗り込みながら、清は最後の挨拶をした。


 そして、窓越しに一家の見える席に座った。


 必死に手を振る麗と涙を堪える母、その2人をまとめて抱き包むような姿勢をとった父。


 清はその全てを目に焼き付けるようにしてよく見た。


(父さん、母さん、麗。俺、絶対に幸せになるよ!)


 バスが動き出した。


 清はもう家族と共に暮らすことはないかもしれないと覚悟を決めて、東京から旅立った。

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