第8話 食事

 俺は彼女のペットだ。だから、俺の食事はいつも、彼女が用意してくれる。たまに、お父様やお母様の時もあるけれども。

 ケージの中にある器に彼女が市販のペットフードを入れてくれる。ただ、それだけ。それだけの事なのに、俺にとってはこのご飯が世界で一番のごちそうに思える。

 確かに、これは市販のものだ。だから、日本中のウサギの何割かは俺と同じものを食べているはずだ。しかし、彼女がよそってくれる、それだけで最高のごちそうに変化してしまうから不思議だ。

 お父様やお母様がよそってくれた時より間違いなく、彼女がよそってくれた時の方が美味しい。


 そんなごちそうよりも更に贅沢なものが世の中にはある。それをきっと、世のウサギたちは知らないだろう。いや、知ってもらっては困る。これは俺だけの特権であってほしい。

 普段より高級なペットフード?違う。

 彼女の手料理?確かに、それは最高かもしれないけれども、まだ食べたことはない。一回、食べてみたいものだけれども。


 それは、むしゃむしゃ、俺が、むしゃむしゃ、今食べて、むしゃむしゃ、いるこれだ。むしゃむしゃ。


「あー、そんな慌てて食べなくても誰も取らないよー」


 そんなこと言われても、彼女の手から直接、おやつを貰えてるんだから、仕方ないじゃないか!美味しい。まさに至福だ。

 だって、もし、俺が人間のままだったら、こう言うことだろ?


「はい、あーん」


「あーん」


「どう?美味しい?」


「うん、美味しいよ」


 ……最高だ。これが叶うなら、死んでも構わない、そう思えるほど。

 いや、ある意味では俺はもう、死んでいるのか。

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