宇宙部の山田はトマトとともに踊る
耀
宇宙部の山田はトマトとともに踊る
「速報、科学部の山田君、オニバスの研究により市の市長賞を受賞」
始まりは新聞部発行の学校の壁新聞だった。
「科学部なんてあったか?」
「ほら、裏の菜園でトマトとか作っているあそこだろ」
「あー、あそこか」
「で、オニバスってなんだ」
「何かの植物だろ、知らんけど」
「調べるわ、あーあの池とかに浮かんでいるやつね、ほら」
一人がスマホをもう一人に見せる。
「あーそれか」
壁新聞を見ていた二人組の男子生徒はその場を立ち去った。
またしばらくして、
「へー科学部なんてうちの学校にあったんだ、山田ってあの眼鏡かけた2組の奴でしょ」
「そう、うち同じクラスなんだけどさ、あいつの走り方、女みたいでさ」
「えー、やって見せてよ」
その場で女子生徒は手の振り方を実践してみる。
「あはは、マジ? 」
「そうまじ」
「ていうか今日帰りどっか行かね? 」
「いいよ、どこにする? 」
そう言って二人組の女子生徒は壁新聞から離れていく。
次に通りかかったのは、男子生徒三人組だった。
「オニバスって何だ? 」
「オニバスってのはスイレン科の草でほら、あの池とかに浮かんでいるやつだよ」
「詳しいな」
「そう言えば伊藤も科学部じゃなかった?」
「え、しゃあこの人お前の先輩? 」
「うん、ちなみに俺もというか、科学部みんなで夏休みに調査した、代表して山田先輩ってわけ」
「すげーじゃん伊藤、なに? 将来はノーベル賞とか? 」
「え、まじかノーベル賞が友人にいることになるのか」
「ノーベル賞がいるって何だよ、それに話が飛びすぎだろ」
「いや冗談冗談、それにしても市長賞ってすげえよ」
「まあ、山田先輩の能力からすれば当然だけどな」
「何、山田先輩ってそんなにすごいの」
「物理と科学なら全国模試100位以内」
「それすげーな」
「本当にノーベル賞取れるんじゃね」
「あの人なら取れるかもな」
そう言って男子生徒三人組は壁新聞から離れていった。
それからしばらくは授業時間ということもあって前を通りかかる人もいなかった。
また、休み時間に入っても次の授業のために慌ただしく廊下では人が過ぎ去っていきたまに壁新聞を見るものはいても足を止めるものはいない。
次に足を止めて会話が繰り広げられたのは掃除の時間になってからだった。何人かで1班になった男女のグループが手を時々動かしながら会話をしている。
「おい、これ」
「へー二年の山田先輩が市長賞を受賞、これが何? 」
「いや凄いでしょ、市長賞って言ったら市で一番ってことだろ」
「まあ、そうだろうけど、ていうか何、お前オニバスなんかに興味あるの? 」
「いや、無いけど。 そもそもオニバスって何」
「いや俺も詳しくは知らんけど、これを見るに植物かなんかだろ、ていうかうちの学校に科学部ってあったんだな」
「そういえばそれな、普段見ないから知らんかったわ」
「科学部ってあれじゃない、1組の佐藤君? かが入っているあのトマト作っているところ」
「え、あのトマト佐藤が作ってんの、そっちの方がすげーんじゃねの」
「ねー夏になったらもらえるかもよ」
「ラッキー」
「そう言えば、体育祭のダンス振付覚えた? 」
「俺はまだ」
「俺もまだ、あれ難しいよな」
「男子は来週テストでしょ? 」
「それなマジやべーわ。いいよな女子はまだで」
「でもうちらも男子の次の週だからそんなに余裕ないわよ」
先生が注意をする。
「ほら手を動かせ」
「「「はーい」」」
放課後になり、生徒たちは各々帰宅したり、部活に向かったりしだした。
先生の二人組が壁新聞を眺める。
「そう言えば、田中先生は科学部の顧問でしたよね? 」
「はい、本当に優秀な子たちで」
「そう言えば夏はまた学校で合宿をするんでしたか? 」
「はい、天文にも興味を持たせてやりたくて」
「それはいいですね、次は天文で市長賞ですか」
「いえ、そこまで行けるか分かりませんし、生徒たちには賞とかではなく自然のあらゆることに興味を持ってくれればそれでいいんです」
「そうですか、話は変わりますが、トマト今年も楽しみにしていますよ」
「はい」
そう言って立ち去っていった。
誰もいないと思っても誰かが聞いているものである、また話は伝達に係る人間が増えることに整合性を失っていきおかしくなっていく。
ある生徒に話が伝わった時には、
「宇宙部の山田はトマトともに踊る」
ということになっていた。
宇宙部の山田はトマトとともに踊る 耀 @you-kagami
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