第3話:最低の【告白】。


「待て待て。お前は何を言ってるんだ」


 本当に何を言ってるんだこいつは。

 もしかして私今失恋したの?

 こいつに? ルキヤにフラれた??

 嘘でしょ? え、好きだったって気付いた瞬間にフラれた?

 しかもなんだって?


「だからさ、二人っていつから付き合ってるの?」


「……だ、誰が?」


「絵菜ちゃんが」


「……誰と?」


「奈那ちゃんと」


 ?? 頭の中がはてなマークでいっぱいになった。


「なんでそうなった」


「だっていっつも一緒に居るし、腕組んだり手を繋いだりお互いの食べ物分け合ったりおでこで熱計ったり抱き合ったり見つめあったりそれからそれから……」


「ストォォォォォップ!!」


 ルキヤは、「何? ここからがいいところなのに……」とぶつぶつ言いながら私を睨んでいる。


「ちょ、ちょっと待って。頭を整理させろ……いや、整理させて下さい」


「急に敬語とか気持ち悪いよ」


 とうとう気持ち悪い呼ばわりされてしまった。

 気持ち悪いのか? 私って気持ち悪いんだろうか?

 いや待て冷静に考えろ。

 どう考えてもこの場合気持ち悪いのはこいつの方じゃないのか?


「つまり、ルキヤは私と奈那が付き合ってると思ってる?」


「そりゃ普通そう見えるよ。まさか……違うの……?」


 そう言いながらルキヤは泣きそうな顔になっていた。

 よく虐められていた頃の顔だ。


「……違う」


「嘘だ。あんなにイチャついておいて今更付き合ってませんでしたなんて詐欺だよ! あ、なるほど! 付き合ってはいないけど友達以上なんとかっていう」


「ちげーよボケ」


 は? マジで理解が追い付かないんだけどどういう事? 私が奈那と付き合う?


「女性同士で付き合うって無くね?」


「無くない! 今世の中の全同性愛者とボクを馬鹿にした!」


「ご、ごめん。そうだよね……確かに愛の形はいろいろあるし、同性愛も私は否定しないよ。それは言い方が悪かった。あまりの事に気が動転してひどい事言った」


「分かればいいよ。次からは気を付けてね」


「いや、お前を馬鹿にしてんのは謝らないからな」


「なんでだよ!!」


 頭痛い……。そもそもどうしてこいつはそんなに私と奈那を付き合わせたいんだ?


「私と奈那が付き合ってるとなんかいい事あるのかよ」


「あるに決まってるでしょうが!」


 決まってねぇでしょうよバカか。


「私にも分かるように説明してくれ……頭がおかしくなりそうだ」


 そうだよ。フラれたばっかりだっていうのになんで私はこんなに頭かき回されなきゃならないんだ。

 しかもフった本人は全く気にしてないし……。泣きたくなってきたぞ。


「察しが悪いなぁ……ボクはね、二人がイチャイチャしてるのを遠くから見ていたいだけなんだよ」


 ……うん、なるほど……わからん。


「何のために……?」


「癒しと人生を豊かにする為に」


「わからん」


「バカなの?」


 お前だよ!! 今の説明で私に理解しろって方が無理だろうがぶん殴って泣かすぞ!!


「そもそも奈那ちゃんって可愛いよね?」


「……は? ああ、奈那はそりゃ可愛いよ」


 だから私が守ってやらないと変なのが寄ってくるんだよお前みたいなのがな。


「で、絵菜ちゃんも可愛いでしょ?」


 な、ななななんだなんだ? なんで私は今急に可愛いとか言われてんの?


「やっぱりお前私に気が……」


「それは無い」


 ぶっ殺すぞてめぇ!!


「可愛い子と可愛い子がイチャイチャしてるんだよ? 見てて癒されるよね? 至高だよね? 尊いよね!?」


「……ごめん、よくわからん……」


「はぁ……これだから絵菜ちゃんはダメなんだよ。とにかく、ボクは可愛い女の子同士がイチャイチャしてるのを見るのが好きなの! ここまではOK?」


「あ、あぁ……そこまでは理解した」


「つまりそういう事だよ」


「……え? 終わり?」


「終わりだよ。それ以上何を言えっていうのさ」


 こいつはただ女の子同士がキャッキャウフフしてるのを眺める為に私達二人をストーキングしていたと……?


「だから早く奈那ちゃんともっともっと深い関係になってボクに良い物を見せてほしいんだよね」


「……私、ノーマルなんだけど」


「……? ははは、何を馬鹿な事を」


「いや、だから私はノーマルで、男の子が好きで、ついでに言えばその好きな男ってのがお前なんだが?」


「だからそれは無いって言ってるでしょ? 気持ち悪い冗談やめてくれる?」


 滅茶苦茶嫌そうな顔で否定された……。

 気持ち悪いって言われた……。

 ずっと前からの初恋に気付いて、初めて告白して、初めてフラれて、気持ち悪いって、冗談やめろって言われた……。


 いくら私でも泣くぞ……?


「絵菜ちゃんもしかして泣いてるの?」


「誰だってこの状況じゃ泣きたくもなるだろうが……」


「ご、ごめんね……そこまでこういうのに理解が無いとは思わなくって……。でも大丈夫、そんな時こそ奈那ちゃんに慰めてもらおうよ! ほら今から会いたいってメールして。ボクは隠れてるから!」


 ……こいつマジでぶっ殺すか?


 そして私も死ぬ。

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