第23話 待つる者
東京都臨海副都心
「“
それは男性の声であった。
鎮音の背後に立って居たのは、小柄だが窶れた顔立ちをしていて、肩を丸めた少し“異様”であった。何故なら、彼は“モスグリーンのロングコート”を着ていたのだ、それも冬物である。今は7月だ。湿気で暑くなり始めた頃である。それなのに厚手のモスグリーンのコートを着ていたのだ。更に、その顔立ちは楓には解ったのだ。
「お前! あやかしだなっ!!」
彼女は直ぐに怒鳴ると背中に背負っているホルスターから、夜叉丸を抜こうとした。けれども、
「「待てっ!!」」
叫んだのは、葉霧と鎮音であった。
楓はその2人の怒声に は??と、不審な表情であったが、圧を掛けられて居たのは理解した。何故なら葉霧が背中に背負う竹刀袋みたいな黒いホルスターから、夜叉丸を抜きそうな右手を掴んでいたからだ。
「や? つか、アイツ“ネズミ男”じゃねぇか! あやかしだ!」
楓は葉霧を見てそう正論をぶっ放したが、彼は彼女の手を握り言った。
「だとしても、ココではやめろ。」
葉霧は彼女を強く見据えたのだ。楓は あ。そか。と、ココが街中であり、周りに多くの人間が居るのを察した。だから、右手を離した。夜叉丸から。
すると、モスグリーンの厚手のスーツを着た青白い顔の、ネズミに似た男は笑う。
くっふふ。と、その前歯2本長いのを見せながら。
ちょろん。と、額に1本の黒い前髪。それを彼は引っ張る。けれども、指を離すとくるん。と、また額の上に戻る。癖っ毛なのであろう。
細い眼がさっき迄は、黒い瞳だったのに“レッドブラウン”に煌めく。葉霧はそれを見て険しい表情になった。
「何者だ?」
彼の声は低く……そして発動する。“ライトブラウンの瞳が碧の瞳”に変わる。退魔師としての“眼力”が発動する。この眼にならないと、彼は“あやかしの存在”が解らない。つまり、“チカラ無し”であったのは、この眼の発動が無かったからである。
「あ〜……そんなおっかねえのはヤメて?」
途端に砕けた言葉遣いをしたのだ、青白い顔をしたネズミに似た男は。けれども、楓は見た。その男の周りにぼんやりと白い煙が出て、同じ様にネズミに似た顔をした男達が現れたのを。
だから、彼女は憤慨して背中の夜叉丸に手を伸ばした。
「なんだてめぇらっ!!」
けれども、今度はそこに居る仲間達が叫んだ。
「「「「楓っ!!!」」」」
そう、誰もが彼女を止めたのだ。
ふっふっふっ。と、それを見て笑うのはモスグリーンのウィンターコートを着たネズミに似た顔をした男である。
何が似てると言われるとその目元、そして口元から生える前歯。それは下唇まで長さがある。更に何とも言えぬ“異臭”である。ドブ臭い、下水臭い。そんな異臭が彼から放たれているのだ。
楓はそれを瞬時に察して“あやかし”だと察したのだ。人間には少し感じづらい匂いである。つまり、“あやかし特有”の生態からの生活臭である。それは、人間にはやはり感じとれないモノである。“気配”とは違う、生活臭。生きてる空間の匂い、それは言葉には言い表せない“匂い”。
それが楓は“鬼”だから解る。
「で? お前ら何モン??」
楓はネズミ男集団を見てそう聞いた。モスグリーンのコートを着たネズミ男は、ポケットに手を突っ込む。
更にその全身から薄気味悪い黒い靄を出した。
湯気の様に。
楓はそれを見るとがっ! と、やはり背中に備えてる夜叉丸の柄を、掴んだのだ。けれども、葉霧が血相変えて怒鳴る。
「煽るな! 何目的だ!!」
街中で、しかも今、この街は“得体の知れない化物論争”が起きている、そんな中で“日本刀”に似た凶器を振り回されたらたまったものではない。しかも、目の前の彼は“視えている”。それは、灯馬達、そして拓夜、沙羅が視えてるからだ。
楓が斬れば血も吹き飛び、人間の目の前で斬殺死体が出来上がる。それこそ、である。
葉霧は、楓の前に立ち不本意ながら彼らに右手を向けた。
ポゥ。と、白い光が右手を煌めかせる。
モスグリーンのネズミ男は、それを見て ほう。と、目を丸くした。
そして、言う。
「ああ……“退魔師”、やっと見つけた。」
にやり。と、笑い彼は言ったのだ。
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