第20話 秘術遣い
東京都
「あ。“お菊ちゃん”!」
彼女の手をずっと繋いでいた“
けれども、幼女は一目散に葉霧に駆け寄ったのだ。
「葉霧っ!!」
普段、彼女は“性質”からか声も荒げることなく、ちょっと大人びたドライな表情と態度が多い。けれども、この時ばかりは感情全てを露にし、葉霧の腰元までジャンプして飛び付き、抱きついたのだ。
それを受けて葉霧は彼女を迎え入れる。
「お菊っ!」
直様に抱っこして彼女を自身の左腕に腰掛けさせて、その頭を抱いたのだ。
お菊は……“あやかし”である。元は人間を喰う童子。だが、葉霧と楓と出逢い喰わずしてこの“現世”で生きるあやかしだ。彼女は元は、“戦で親を喪った子供達の魂”が寄り集まり産まれた存在である。人間を喰う本能はなく、そうさせたのは“
フンバは、モグラの姿をしたあやかしであり“でんでん太鼓”を用いてお菊を操り、彼女の中に集う“悲しみの魂”達の力が怨念となり、妖力となり力となったのを利用し人を襲わせ共に人間を喰らう魔物に育てあげたのだ。
お菊は記憶がない。フンバに何をされていたのか、何をさせられていたのか記憶にない。
そして、フンバは楓と葉霧に捕まりお菊共々“退魔師一族”の
フンバは猛省と反省の日々で、“
そして、そのモグラもぴょこぴょこと歩きながら2人の前にやって来るのである。
“
黒髪おかっぱの赤紅葉柄の着物、草履姿のお菊を抱いていた葉霧が、彼を見て言った。
「お前、ガチでふざけてんのか?」
と。
「は?? 何がですかっ!? アッシは至ってクソ真面目なお供ですがっ!?」
フンバはとっても小さい。185越えの葉霧からすれば。それにぬいぐるみサイズだ。手でその膨れた腹はぐしゃっ。と、潰せるだろう。
と、ここで葉霧に抱かれていたお菊が頭を上げた。その肩に両手を乗せて、葉霧を見つめる。黒いくりっとした目で。
「葉霧、“
お菊は葉霧を見て嬉しそうな顔をしたのだ。葉霧はそれを聞き、彼女を抱き上げたまま少し険しい表情をして言った。
「お菊……あの薬は何処で?」
その一言に、周りに居る誰もが……表情を強張らせたのは言うまでもなく、楓ですら固まったのだ。けれど、お菊はにこやかに葉霧の肩に手を乗せ抱き上げられたまま答えた。
にっこりとしながら。
「来た。鎮さんのお寺に。“白い大きなわんわん“。」
お菊は身体は6〜7歳だが、とても幼く恐らく親を喪失した魂達の年代の多くは……4歳に満たなかったと思われる。彼女の生態も謎である。”
「わんわん?? 犬か!? お菊!」
怒鳴ったのは楓だ。お菊は葉霧の腕に座ったまま、楓を見た。
「うん、白い大きなわんわん。 優梨さんも見た。祈仙の遣いで、葉霧に渡してくれ。って。」
言うと、お菊は葉霧を見たのだ。彼女はにっこりと笑う。
「葉霧、元気になった?」
無邪気な笑顔で彼女は言う。
楓も、灯馬も……その手を握りしめていた。
葉霧もまた、お菊の無邪気な笑顔を見ながら……微笑んだ。
「ああ、有難う。助かったよ。お菊。」
「良かったっ!!」
普段、笑うことなどない娘は笑顔になり、葉霧の首に抱きついたのだ。葉霧は自分の首にしがみつき、肩に頭をくっつけるお菊を見て……その眼は、険しく尖る。
(お菊を利用した奴が居る……、それが恐らく……“祈仙”の名を語るクズ。)
葉霧の眼は………碧色には光らなかったが、その一歩手前でとても鋭く険しいモノだった。
楓はそんな彼を見て言った。
「葉霧………悪い、ちょい……お菊は……外してくんね?」
彼女は葉霧を見てそう言ったのだ。すると、葉霧はちらっ。と、自分の肩に頭をくっつけ、首にしがみつくおかっぱ頭の少女を見た。
「……………解った。」
葉霧は言うと彼女を優しく降ろした。お菊は降ろされて きょとん。としていたが、葉霧は直ぐに目の前の少女を見たのだ。
水月だ。緩やかな栗色の髪はきちっとアップ、ドールフェイスで大きな瞳が特徴的な、美少女である。ピンクのニット素材のカットソー、デニム素材のミニスカート。足元しっかり、ピンクのスニーカー、彼女も戦闘態勢だ。
「頼む。」
「解ったわ。」
葉霧が言うと、水月は強く頷いた。そして、直ぐにお菊に駆け寄りしゃがむ。
「あっちであやとり。しよ? まだ、お話あるんだって。」
と、お菊の両手を掴み彼女は言った。すると、お菊は うん。と、笑顔で頷いた。
それを眺め、彼女と、“
だが、楓はモグラのフンバを掴み。顔面至近距離で言った。
「フンバ! お前は知ってんだよな? つか、誰だっ! その白いわんこ!!」
ひえっ!! と、モグラの両腕は楓の前でホールドアップ。小さな手に長い5本の爪。それがカチカチとか重なる。
震えているのだ。
「し……知らないんですよっ!! アッシはその時、外に見廻りに行ってて……優梨さんとお菊しか居なかったんス! 鎮音さんもどっか行ってましたし!」
モグラのフンバは慌てて言ったのだ。楓の蒼い眼ヂカラの前に。すると、葉霧が言った。
「優梨さん?」
聞くと、フンバは葉霧を見たのだ。ぶんぶんっ! と、その首の無い茶色の頭を思いっきり縦に振った。
「へい! 優梨さんが言ってたでやんす! 白い犬が来たって。で、お菊ちゃんを呼んでなんか渡したって。」
葉霧はそれを聞き眉間に縦ジワ寄せた。ぎゅっ。と、右手を握る。それを見て灯馬が口を開く。
「それはなんだ? あやかしなのか?」
フンバは灯馬を見て首を横にぶんぶんっ。振った。首がないのに。
「解らんのですよ!! お菊は確かにあやかしですが、“視える”だけで、“悪害”までは察知する力ねぇです! アッシは何だかそれには恵まれてて、今迄アブない目に遭わなくてすんだんです、結果………捕まりましたけども。」
ぐっ。と、楓にその身体掴まれる力を込められる。彼女は、モグラの胴体を握りしめる様に掴んでいるのだ。
「ぐえっ! か……楓殿っ!! ギブっ! ギブですぞっ!!」
モグラは楓の右手をばしばしと、叩く。
「じゃぁかしいっ!! つか、言え!! お前の知ってるあやかしの中に、“秘術遣い”は居んのかよっ!?」
楓が怒鳴り散らすと、え? と、葉霧は目を見開いた。そして、彼は瞬時だった。モグラを締め上げる楓の胸倉掴む。
鋭く尖る眼を向けて。
「“秘術遣い”って何だ? お前、俺に隠してることあんの? あ"?」
葉霧がブチ切れたのであった。
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