第2章  東雲

幕明  終結への鏑矢

 ーー空を暗雲が覆う。


 真っ黒な闇の様な色をした雲が。



 東京都臨海副都心……皇海街すかいまち


 そこに大量の闇喰いが覆った。


 それは海に浮かぶその街を、埋め尽くしたのだ。




 ✣



 “臨海線 新木場駅”




「えー? なんで? 約束したじゃーん。」


 駅のホームで電話をしている少女がいる。

 これから来るであろう、電車を待つ間の出来事であった。


 少女の傍を人が通る。

 黒い帽子を被ったフード付きのジャケット。

 セーラー服姿の少女の脇を通りすぎる。


 男の様であった。



「え……?」

「ちょっとなに?」


 それは、周りにいた電車を待つ人間たちの声だ。


 昼下りの駅のホームに、少女の明るい栗色の髪が、その可愛らしい頭が飛んだのだ。


 血……が、噴き出した首元。

 ばっさりと切断されたその部分から、噴き出したのだ。


 スマホを持つその手。

 頭を無くしたセーラー服の少女は、ホームに倒れた。



「きゃぁぁっ!!」

「うわ! 首がっ……!!」


 ホームにどよめきが響く中で、その者は、更にもう一人。

 手際よく。


 通り過ぎる瞬間に、スーツ姿の男性の首を刃物と化した右手で、切断した。


 首が飛ぶ。


 青年のその驚いた顔をした頭が。



「うわぁっ!!」

「こっちも!?」


 突然のーー、出来事にホームの中は騒然とする。


 ホームから離れ、階段でもまた首が飛ぶ。


 駅から出る間に何人か……。

 同じ様に殺された。





 同刻ーー、“天王洲アイル”。


 そこはショッピングモール。

 大きなショッピングセンターに、悲鳴が飛ぶ。


「きゃぁぁっ!!」


 昼下りに買い物を楽しんでいた人達は、いきなり入口から入ってきた、一人の男とその隣には少し明るめの茶髪をツインテールにした少女。


 明らかに人間離れしたその顔つきの、二人にエントランスホールで、次々と殺されていたのだ。


 乱獲の如く。

 その手には包丁と、ナタ。

 それらを手に辺りにいる人間たちの首を撥ね……まさに、狂気そのもの。


 白昼の無差別殺人となっていた。



 惨殺事件は、この二件だけではなく、他にも同じ様に起きていた。皇海街すかいまちの傍にあるお台場でも、やはり“人間離れ”した人間たちが、無差別殺人を起こしていたのだ。



 それは、緊急速報が流れるほどであった。





 ✣



 “蒼月寺そうげつでら



 電話が鳴り響く。


 和室に。


 それに手を伸ばすのは、鎮音であった。

 薄紫の着物の袖で、白い電話の受話器を持つ。


 そうめんをすすっていた誰もが、テレビに釘付けだった。


 速報のテロップが流れ、和やかなバラエティ番組は、特別報道番組に、切り替わったのだ。


 楓も葉霧も、優梨も夏芽も。

 そして、お菊と浮雲番フンバもだ。


「そうか。わかった。」


 鎮音は受話器を置いた。


 険しい表情で振り返る。


「楓、葉霧。直ぐに“皇海街すかいまち”に、来てほしいそうだ。」


 と、そう言ったのだ。


 楓は、白昼堂々の“無差別殺人事件”が、お台場の駅前通りで起きたニュースを、見ていた。


 だが、その視線を鎮音に向けた。



「皇海街?」


 葉霧が箸を置いた。


 夏休み初日だ。


 その昼食中の事であった。


「灯馬たちにも声を掛けて欲しいそうだ。街中で、人間が暴れているそうだ。」


 と、鎮音はそう言ったのだ。



 楓と葉霧の顔色は険しいものに変わった。

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