第4夜  あやかしの行方

 ーー広い個室。


 ベッドと簡単なテーブルなどもある、正にゆったりと出来る個室病室。


 そこに、来栖と葉霧、鎮音だけになる。

 楓は、廊下に出て電話をしに行った。


 来栖は顔をあげた。


「どうしてわかったんだ? 葉霧くん。俺が、“あやかし”を殺そうとした。と。」


 来栖は楓の手前ーー、言葉を発せなかったのか。いなくなるとそう聞いた。


 葉霧は、来栖を真っ直ぐと見つめると口を開く。


「前に……“暴走した楓”に、喰われそうになった事がある。と、言っても噛みつかれただけだが」


 と、葉霧は少し哀しそうな眼をした。


 鎮音は、黙って聴いていた。

 腕を組みながら。


 来栖は、目を丸くした。

 だが、直ぐに


「ほらみろ! あんな人も襲わなそうな娘だって“あやかし”なんだ。君の事を殺そうとしたって事だろ? 何でそんな“鬼”と一緒にいるのかは知らんが……」


 と、そう声を荒げたが、止まった。


 葉霧の眼が恐ろしく“冷たく鋭く”なったからだ。


 来栖はその“威圧”に、口を開けたまま止まった。


「それ以上は勘弁を。俺は“貴方を傷つけたくない”」


 と、葉霧は低く冷たい声でそう言った。


 来栖は息をのんだ。


(……多くの犯罪者を相手にして来た俺が……ビビるとは……。この少年は……“狂気”を抱えてる。この眼は……“必要になれば人も殺す眼”だ。)


 圧倒された事を知った。


「暴走した……楓は、その“自我”を保つ為に、自分自身を傷つけたんだ。刀で自分を刺して“冷静さを取り戻した”」


 葉霧の眼は幾らか穏やかになった。

 だが、来栖を見据える強い光は変わらない。


 “苦しいのはお前だけではない”と、まるで言い伝えるかの様な眼であった。


「そこまでしないと“暴走”は止められない。それでも俺は、楓だったからだと、思ってる。だから……そう簡単に暴走したあやかしが、止まるとは思えなかっただけだ。」


 と、葉霧はそう続けた。


 ガラッ……


 楓が個室のドアを開けた。


 ハッとしたのは来栖だった。

 入って来た楓に視線を向けた。


 スマホ片手に黒の“角隠し”の為のキャスケットを、被っている。その頭を傾げながら入って来たのだ。


「あれ〜? 現在お繋ぎ出来ません。になったぞ。葉霧。沙羅の番号は、“了承”してくれてるよな?」


 と、そう言った。


 葉霧はそれを聞くと、目を見開く。


「ああ。ちゃんと“繋がる”様にしてあるよ。転送されないだろう?」


 と、そう聞いた。


 楓のスマホは“葉霧が色々といじっている”

 勝手な事が、出来ない様になってるのだ。


「何回連絡しても繋がんねぇんだ。なぁ? どーゆうこと?」


 楓はイマイチ使い方が良くわからない。

 とりあえずメールと、通話は出来るだけ。


 平安の鬼娘にしてみれば、スマホなんて持った事も見た事もない“謎の物体”だ。


「電波が届かないのかもしれないな。電源が入っていない。とか……。来栖さん。新庄さんに連絡つきます?」


 と、葉霧は来栖に視線を向けた。


「ああ。だが、おかしいな。“電波”が届かない場所に行く時はコッチに、連絡してくれるはずだ。」


 がたっ。


 来栖はベッド脇の棚の引き出しを開けた。

 一番上の引き出しに、スマホが入っている。


 来栖は特殊班になって、ガラケーからスマホにチェンジさせられた。仕事用だ。


 楓は葉霧の隣で、スマホを操作する来栖を見つめた。

 葉霧は楓のスマホを取り、“穂高沙羅”を呼び出していた。


『お掛けになった電話番号は、電波の届かない場所にあるか、電源が……』


 と、コールの後にアナウンスが流れた。


 葉霧はタップすると通話をきる。


「ダメだ。繋がらない」

「なんで? なんなんだ? 壊れたのか? 乱暴にしてねーぞ。」


 葉霧の様子に、楓はそう言いながらスマホを覗きこむ。


「違うよ。相手が繋がらないんだ。」

「だからなんでだ? 壊れてんのか? 沙羅の。」


 葉霧は聴いてくる楓に、


「後で教えるよ」


 と、いつもの決り文句を伝えた。

 とても優しく。


 楓はムッとしていたが、


「新庄くんも繋がらないな。」


 と、来栖が首を傾げたのだ。


 すると、それまで黙っていた鎮音が口を開く。


「まさか“あやかし”探索に、足。と言う訳でもあるまい。車はどうした? GPSがついているだろう?」


 と、そう言ったのだ。


(でた! オレと同じじーぴーえすだ。これで葉霧はいつも、オレの事を探すんだ。)


 ようやく“GPS”は、理解している様子。


「ああ。“北区”の方だな。」


 と、来栖はスマホで探索していた様だ。

 画面を見ながらそう言った。


 葉霧が来栖に近寄ると


「持って行くか? 車が動けばわかる。」


 と、スマホを差し出した。


 葉霧はスマホを取ると画面を見つめた。


「……北区……“大和町やまとちょう”の辺りだな。」


 と、言いながら表示されているマップと、赤い点滅のランプを見つめる。


「どこだ? それ。」


 と、楓も葉霧の後ろから手元を覗きこむ。


「大和町……。確か。“東雲建設”が持ってる土地があるね。」


 と、鎮音がそう言った。


「ばーさん? ホントか?」


 楓は鎮音に視線を向けた。


「ああ。レジャー施設かなんかを建設するとかで、買い占めた土地があったはずだ。私にも“筆頭株主”の話が舞い込んできたからね。胡散臭いから断ったが。」


 と、鎮音はそう言った。


(筆頭株主? このおばばだけは、底が知れない……)


 来栖はあ然だ。

 目を丸くした。


「そうなると……その場所にいるかもしれないな。」


 と、葉霧はそう言った。

 すると鎮音が右手を差し出した。


「貸してみな。」


 と、そう言ったのだ。

 葉霧はスマホを差し出した。


 鎮音は、目を少し細めながら画面を見つめる。


「この辺りだね。空き地と近くに倉庫があるはずだ。その倉庫も東雲建設の持ちモンだよ。」


 と、鎮音はマップを見るとそう言った。

 葉霧にスマホを渡した。


 すると、葉霧は来栖にスマホを差し出した。


「いいのか?」


 と、来栖が聞くと


「記憶した。それに“東雲”が絡んでいるとなると、あやかしがいる筈だ。俺達は“気配”がわかる。」


 と、葉霧はそう言った。


「そうか。何かわかったら連絡するよ。頼む」


 来栖は頭を下げた。


 楓と葉霧は“北区大和町”に行くことになったのだ。


 連絡のつかない沙羅と、新庄拓夜を探しに。




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