第83話

「それ……どういうことだよ」


「黒炎くん!?」


バン! っとドアを開けて、息を切らしながらこちらに近づいてくる。


「ああ、おかえり黒炎」


「兄貴は自分から女になるって言ったんだぞ。これは心の病だから仕方ないって……俺はそれが受け入れられず家を飛び出したのに。兄貴が変わった本当の理由は親父だったっていうのか?」


黒炎くんはその場で泣き崩れるようにしゃがみこむ。どうやら、紅炎さんは黒炎くんも嘘をついていたようだ。真実を知って、ショックだったんだろう。


「黒炎くん……大丈夫?」


私はすぐさま黒炎くんの元へと駆け寄った。だってそうしないと黒炎くんが今にも消えてしまいそうだったから。


「ああ、平気だ。朱里もこんなところに連れてきて悪かった」


「黒炎くんのせいじゃないよ。私は大丈夫だから」


「黒炎のせいじゃないだって? 君が黒炎と関わることがなければ、こうしてここに足を踏み込むこともなかったのに」


「朱里だけでもここから返してやってくれ……お願いだから」


黒炎くんは紅炎さんに頼み込もうとする。これ以上、私が傷つかずに済むようにと。だけど、自分のことも心配して。


「黒炎、君は今まで彼女に隠してきたんだろう? だったら今ここで話すべきじゃないのか。君が僕から逃げて、どうやって生きてきたのかを」


楽しそうに高笑いをする紅炎さん。きっと心の底から、この状況を誰よりも楽しんでいるのだろう。人が苦しんだり悲しんだりする表情を見るのがおそらく好きなんだろうと確信していた。じゃないと、今ここで笑う意味がわからない。


「黒炎くん。私……知りたい、黒炎くんの過去を」


「朱里、でも……」


「大丈夫、どんな黒炎くんだって私は受け止められるから」


「……わかった、話す」


黒炎くんは深く頷いた。そうして深呼吸をして、一旦落ち着きを取り戻したのか黒炎くんはゆっくりと口を開いた。


今から語られるのは黒炎くんの過去。

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