第82話
「強制なんて人聞きが悪い。黒炎は同意してくれているよ? 君に被害を加えないかわりに教養を学び、僕の仕事の手伝いをすると。君は聞いたことがなかったのかい?」
「そんなこと……」
聞いてない、黒炎くんから一度もそんな話を。だから黒炎くんは学校に来なかったっていうの? 私を守るために。
「大企業、柊グループ……今度は海外にも店を出そうと思っていてね。黒炎は柊グループの次男なんだよ」
「そんなのって……」
柊グループ、飲食店からホテルまでありとあらゆる店を展開している。私は庶民だけど、テレビCMなどでも見たことはあるし、名前だって一度は聞いたことくらいある。でも、そんな御曹司の子供が黒炎くんだったなんて。
待って、今……次男っていった?
「ああ、君がなにを思っているか手にとるようにわかるよ。そう、次男だよ。普通は長男が仕事を手伝うのが普通じゃないって? 残念だけど、長男はここにいる焔なんだ。僕の今の妻であり……僕が育てた最高傑作さ」
「……」
紅炎さんは、なにを言っているの? 焔さんが長男って、焔さんは女性でしょ。それに今の妻で、最高傑作ってなんなの。意味がわからない。
「僕は早くに妻を亡くしてね。そりゃあ悲しくて毎日、涙が止まらなかったさ。でも、そんなとき僕は思いついたんだ。そうだ、残された子供を妻そっくりにしようってね。……この面影も今じゃ妻に瓜二つなんだよ? 髪だって伸ばすのは大変でね」
焔さんの髪留めを乱暴に引っ張る。焔さんの腰まで伸びた黒髪はたしかに綺麗だ。手入れだって行き届いている。紅炎さんは優しく壊れ物を扱うようかのように頭を撫でる。けれど、焔さんの目に光なんてものはなく、無の表情だ。
「だけど、柊家で最初に生まれた子供は別の家庭の専属メイドか執事になるのが決まりでね。今じゃ一緒に暮らすことは不可能なんだ。でも美しいだろう?」
「どうして、そんなことしたんですか。こんなの人形と一緒です! 焔さんだって嫌がっていたんじゃないんですか」
「え? そんなことないよ。君が拒否すれば、黒炎が君の代わりになるだけだよって言ったら、焔は快く引き受けてくれたよ」
「っ……」
今にも飛びかかりそうなほど私はイラついていた。紅炎さんは子供を自分の所有物としか思っていない。黒炎くんたちの意見などはなから聞く気はないのだ。拒否すれば、相手が逃げられないような理由を作る。
こんなのは愛情でもなんでもない。今まで、黒炎くんが親の話題を出さずにいた理由が納得できるほどに紅炎さんは狂っている。
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