第80話
「焔さんが嫌がってるのがわからないんですか!? 大体、無理やり名前を呼ばせて貴方は嬉しいんですか?」
紅炎さんと焔さんの関係はわからない。けど、これ以上は見ていられず私は怒鳴ってしまった。嫌がってる女性を無理やり従わせようとするなんて、この人は異常だ。
「無理やり……? これが僕のところの教育方針なんでね。家族同士の会話に君は口出しするのかい?」
「家、族……?」
「僕は柊
父親……? この人は何を言っているの。理解が追いつかない。私の頭はフリーズする寸前だった。焔さんが紅炎さんの子供だってことは理解した。だけど、それにどうして黒炎くんの名前が出てくるの?
「頭が追いつかないって顔をしてるね。……ほら、家に入りなよ。中でゆっくりお話しようじゃないか」
「朱里様、申し訳ありません。私が知っていたら、ここには絶対に連れて来……」
「焔。それ以外、余計なことをいうと黒炎がどうなるかわからないよ」
「……すみません、紅炎様」
「……」
これが焔さんの父親って嘘でしょ? ねぇ、誰か嘘だと言って。焔さんがこんなにも怯えてるなんて見てられない。とても不快な空間で吐き気がする。
「おかえりなさいませ、旦那様」
「旦那様、鞄をお持ちいたします」
「食事の準備は出来ています」
「ああ、ありがとう」
扉を開けるとすぐに目に飛び込んできたのは、複数のメイドさんたち。みんな紅炎さんを見てはお出迎えをしていた。
メイドさんたちには悪いけど、私はこんな人でも慕われているのかと思った。それに他の人には旦那様と呼ばせているのに、焔さんだけは駄目な理由はなんなの。子供だから? だけど、そのわりに自分の名前を呼ばせるのはなんだか違和感を感じる。どうして、お父さんじゃダメなんだろう。
「食事の準備が出来てるからこっちへおいで」
「あの、私は食事をしに来たんじゃ……」
「せっかく君の分を作ってくれた料理長に悪いとは思わないのかい? ゆっくり食事をしながら話をしよう」
「……はい」
やっぱり無理やりだ。どうして断りにくい理由をつけては私をこの屋敷に留まらせようとするのか。それに私の分の料理も、ということは今日、私を迎えに来る前提だったんだ。
「普段はここで食事をしてるんだ。知人とは別の場所を使うから、家族以外をこうして招くのは君が初めてかもしれないな」
私はお金持ちの家には必ずあるようなお決まりのダイニングルームに案内された。紅炎さんは嘘の笑みを浮かべながら笑っている。そんなの全然嬉しくない。
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