第79話

「その答えを知りたくば車に乗ってくれないか。黒炎が今どこにいるか教えてあげよう」


「わかり、ました。でも嘘だったら警察を呼びます」


「ははっ、そのくらい警戒されてるとは心外だなぁ」


そこ、笑うとこ? 私はキッと男性を睨みつけるような形で車に乗り込んだ。少しでも黒炎くんに繋がる何かがあるのなら、それにすがらずにはいられない。


「旦那様、あまりにも強引なのでは?」


運転手のメイドさんが後ろを向き、心配そうに私を見ている。


「強引じゃないさ。彼女も同意してくれている」


「……」


無理やり同意させたのはそっちのくせに。それに以前の優しそうな雰囲気はなく、今は別の人に見える。見た目は優しそうな感じ……なんだけど、心の奥底では何を考えているかわからない顔。


会長さんとは違い、この男性からは本当の恐怖を感じる。ただの勘ではあるんだけど、隣に座っているだけでヒシヒシと伝わってくるこの感じ……。


「ときに君は柊黒炎とはどういう関係なんだい?」


「それ答える必要ありますか」


「なんだか冷たいねぇ……あぁ、それとも気付いてるのかな? 私の……いや、僕の正体に」


黒炎くんの関係者ってことはわかるんだけど、それ以外の答えはまだわかっていない。


「……」


私は黙ってしまった。本当は色々話をして黒炎くんのことを聞き出したいんだけど。今じゃないと自分が囁いてる気がした。


それから40分ほどして、車が止まる。もちろんその間、楽しい会話など一切なく、ただ無言だった。


「着いたよ。さあ、おりて」


そこはお屋敷だった。大きな噴水に敷地内もかなり広く、いかにもお金持ちって家がそこには存在した。


手を差し出されたが、私はその手を握らず車からおりる。


「黒炎くんはここにいるんですか」


「……紳士に対応したつもりが嫌われてしまったようだ」


「おかえりなさいませ、旦那様」


「えっ!? 焔、さん……?」


玄関先で待っていたのは……焔さんだった。


「朱里様。どうして、こちらに?」


焔さんも私がいたことに驚きの表情を隠せないようだった。


「旦那様、なぜ朱里様をこんな場所に……!」


ガッ! と男性の胸ぐらを掴もうとする焔さん。私は焔さんの予想外の行動にその場から動けずにいた。


「焔。旦那様じゃないだろう? 僕の名前を呼んでおくれ」


紅炎こうえん、様」


「そう、いい子だよ焔」


頭を撫でられる焔さん。だけど、胸ぐらを掴もうとした手をギリギリと力強く押さえる紅炎さんという男性に焔さんの身体は震えていた。


「ちょ、やめてください!」


私は反射的に身体が動き、バシッ! と紅炎さんの手を振り払った。

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