第70話

「さっき慰めてくれたお礼をさせてくれないか。それにゲームばかりしてる俺にヤキモチ妬いてるんだろ?」


うっ、やっぱり気付かれてたか。そりゃあ、ゲームの時間のことで言えば察されても仕方ない。


お礼はキスとか軽いものでいいんだけどなぁ。いや、お礼にキスされても私が恥ずかしいから今のは撤回しよう。しかし、値段はピンからキリまであるからなんとも言えないけど、ドレスをそのくらいって言える黒炎くんは時々、本当に私と同級生? と疑ってしまう。会長さんのバイトの話がなければ、御曹司かなにかだと勘違いしてしまいそうになる。


「確かにヤキモチは妬いてた。けど、ドレスのことはその……不参加でもいいんじゃない?」


「俺は朱里と一緒にパーティーに行きたいんだ。今回は俺が朱里のドレス姿が見たいから購入するってので許してくれないか」


「う、うん。それならいいよ」


そんな嬉しいことを言われたら断れないじゃん。黒炎くんは不意打ちでカッコいい言葉をいうから本当に困る。


「じゃあ決まりだな。今から行こうぜ」


グイッと腕を引っ張る黒炎くん。なぜ、私よりもはりきっているのかがわからない。そんなに私のドレス姿が見たいのかな?


これって恋人になってから初めてのデート!?

私は別の意味で浮かれていた。パーティーでは黒炎くんのタキシード姿を見れると思うと悪くないかもとひそかな楽しみを見つける私だった。


「ど、どうかな?」


「ああ、それが一番似合ってる」


「それなら良かった」


服選びはもっと気軽に、他愛のない会話を弾ませながらって想像していた。だけど現実は違っていて。いろんなドレスを着て、早一時間。ついに黒炎くんの御眼鏡に適うものが見つかった。真剣に私が似合うものを選んでくれるのはいいんだけど、まさかここまでとは……何着も試着した私はもうヘトヘトだった。でも、姿見を見ても確かに今まで着たどのドレスよりも似合う。


「この際だから髪型と靴も選んでもらうか」


「い、いや。もうその……」


「俺が見たいんだ。それにせっかくだったら今よりも、もっと綺麗になれた自分を見てみたくないか? ……彼女を綺麗に仕上げてくれませんか」


「かしこまりました」


「は、はい!」


高そうな店でも黒炎くんは普通に接していた。というか、こんなお店の店員さんと気軽にお話してるし。


数分後、私は髪型も綺麗にセットしてもらい、ヒールの高い靴も履かせてもらった。


「なんだか魔法がかかったみたい……」


私はそう口に出した。それほど手際がよく、自分が別人に見えたから。

なんだかお姫様になった気分でさっきまでの疲れもどこかに吹き飛んだ。


「お似合いですよ、お客様」


「あ、ありがとうございます」


お世辞だってわかってるけど、ここは素直に受け取っておこう。

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