第69話

「朱里。お前には迷惑だってかけるし、たまにこんな弱い俺を見せることがあるかもしれない。それでも……これからも一緒にいてくれるのか?」


泣きそうになる黒炎くんを見て、私は不快どころか、もっと好きになった。好きな人が自分に弱みを見せてくれる。それは信頼されてる証拠なんだと私は嬉しかったのだ。今まで一人で抱え込んでいたのだろう。


「そんなの当たり前だよ。弱い自分がいない人なんているわけない。迷惑をかけない人だって……それは迷惑をかけないように努力しているの。だけど、黒炎くんは私の恋人なんだから、たまには弱みを見せたっていいんだよ。それに私が黒炎くんのこと小さい頃から好きだった気持ち、知らないでしょ? 今はなにを言われたって、へっちゃらなんだから」


話を聞くだけ。そう思っていたけど、弱っている黒炎くんを見たら咄嗟に身体が動いていた。私は黒炎くんを抱きしめて、優しく頭を撫でた。


「朱里は思っていたよりも大人なのかもしれないな。……付き合ったばかりで油断したのか、それとも肩の力が抜けたのかお前に弱みを見せてしまった。だけど、聞いてくれてありがとう」


「どういたしまして」


黒炎くんが優しく微笑む。その笑顔は男の子のなのに不覚にも綺麗だと思ってしまった。黒炎くんが少し元気になってくれてよかった。私も黒炎くんが笑顔になると私自身も嬉しくなる。それは好きだからなんだろう。


誰もが好きな人が幸せであることを望むように。


黒炎くんも私と一緒にいて、少しでも幸せって感じてくれたらいいな。



「ハロウィンパーティー?」


「ああ。なんでもハロウィン当日の夜に全校生徒とその身内を集めてのパーティーがあるらしい」


黒炎が落ち着いて少し経った頃、お菓子を食べながら学校の話をしていた。


「会長がいうにはハロウィンだと思って仮装して来た人は痛い目を見るとか言ってたぞ。ちゃんとしたドレスアップが必要だとか」


「へ、へぇ」


もしかして、おふざけ半分で来た生徒をその場でお説教したとか? なんとなく、その場面が想像できてしまう。


それにしてもドレスアップって……高級なドレスなんて持ってないよ。普段はただ学校に通ってるだけだから、そんなに気にしてなかったけど、急に元お金持ち学校の名残りなのか、こういう大型イベントをやるんだから庶民の私からしたら困る。


「高くなくてもドレスだったらいいらしいぞ。っていっても、朱里は持ってないだろうから今から見に行かないか?」


「え、でも……私、そんなにお小遣いもらってない」


「そういう時こそ、俺を頼れよ。今は恋人なんだからそのくらい買ってやる」


「いやいや、それは……!」


ブンブンと勢いよく首を振る私。恋人だからといってドレスを買うなんて簡単に言わないでー! それは申し訳ないとか以前の話だよ。

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