第59話
「あの、執事さんのオススメとかってあります?」
「そうですね……まだ暑いですし、桃のコンポートゼリーなんていかがでしょう?」
「じゃあ、それを一つお願いします」
「はい、わかりました」
テキパキとこなす黒炎くん。その口調も雰囲気も誰かに似ている気がする。それに普段では見ない黒炎くんが何故だか遠い存在に見えた。
私が知らないところで教養を身につけていて。それはまるで……って、考えすぎだよね。黒炎くんは頭もいいし、接客マニュアルを借りたのを読んでぱぱっと暗記しただけ、だよね。
それからというもの、ひっきりなしにお客さんが来ていて、教室の外は行列だった。その理由は言うまでもなく、黒炎くん目当てで来る女性客。
イケメンの高校生が執事服を着ていて接客しているとウワサが広まり、今ではこんな感じになってしまった。
「お待たせしました、お嬢様」
「……」
さっきから立ちっぱなしで接客をしている黒炎くんの息が上がっている気がする。疲れているのが顔に出ている……。
「少し黒炎くんを休ませてあげない? なんだか疲れてるみたいで……」
私はクラスの男子に声をかけた。
「たしかにさっきから接客しっぱなしだよなー。でも、本人に聞いたら大丈夫だって言ってたけど?」
それって……黒炎くん、クラスメイトのことを思って無理してるんだ。今すぐにでも止めなきゃ、さすがの黒炎くんでも体力が持たない。
「あのね、黒炎くんが大丈夫だって言ってるときは大丈夫じゃないときっていうか、その……上手くいえないけど」
上手く言葉として男子に伝えることが出来ず、モゴモゴしていると、「霧姫の言いたいことなんとなくわかるからさ。止めてくるわ」と言い残して、黒炎くんに一旦休むように声をかけた。
「なんでか男子に宣伝がてら、休憩して来いって追い出された」
「それは黒炎くんが働きすぎたからだと思うよ?」
「……朱里が気付いてくれて男子に言ってくれたのか。ありがとな」
「なんで私だってわかったの?」
「俺の些細なことに気付けるのって、朱里くらいしかいないだろ」
うっ……! 今、ぎゅっと心臓を掴まれた気分になった。そんなトキめく言葉を言うなんて、やっぱり黒炎くんはズルい。しかも、笑顔とか反則すぎる。
だけど、黒炎くんの言うとおりだよ。私は黒炎くんのことが好きだから、ほんの小さなことだって気付ける自信があるの。まぁ、さすがに心の闇すべてをわかるわけではないけれど。
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