第54話

「今のっているってことでいいのか? ……うっ」


胸あたりを押さえながら黒炎くんはその場にしゃがみこんだ。


「ちょ……! 黒炎くん大丈夫!?」


「あ、ああ。心配してくれてありがとな」


私は黒炎くんを支えつつ、ベンチに腰かける。


「朱里に好きなやつがいるってわかったら、なんだかこの辺がこう……痛みが走って、なんだろうな」


「えっと……」


もしかしてヤキモチってやつなのかな。幼馴染を取られるのが嫌みたいなこと? 黒炎くんはアカリちゃんのことが好きなわけだし、思いつく理由はそれくらいしかない。


「それと朱里、怒ったりはしないが今度から一人で男の家に行かないようにな。俺は幼馴染だから別としても、他の男の家は危険だ。何をされるかわからない」


「会長さんとのお出かけは行き先決めてなくて……って、黒炎くん、なんだかお父さんみたい、ふふっ」


「俺は本気で心配してるんだからな」


黒炎くんは照れてて、ソッポを向いてしまった。本当は過保護に心配してくれる黒炎くんの言葉はとても嬉しかった。


「あ、そうだ。会長さんって人気作家の神崎紅先生だったんだよ。黒炎くん、知ってた?」


「朱里……さっきのことがあったばかりでもう会長の話か。って、会長はそんなことまで朱里に話したのか。知ってるも何も俺は……て、手伝ってるんだよ」


「え? 今、なんて?」


後半につれてだんだんと声が小さくなる黒炎くん。なんて言ったかわからない私は、思わず聞き返してしまう。


「俺は会長のとこでアシやってんだよ。それで給料なんかも貰って今のアパートに住んでんだ」


「アシ……アシスタントってこと!?」


「会長は学校の奴らには、神崎紅の正体が自分だと幻滅させるからって口止めされてたんだ。夏休み前日に連絡取れなかったのも背景とか描いてたんだよ」


ポカンと口が開いたままの私。会長さんが神崎紅先生だって言うのにも驚いたけど、まさか黒炎くんがそれを手伝ってるアシスタントさんだったなんて、これまた驚きの連続だ。


「朱里、口開いてるぞ。……って、もうこんな時間か! やべぇ、時間過ぎたらまた言われちまう」


「黒炎くん、時間ってなんのこと?」


「色々、口実作って朱里を助けに来たんだ。抜け出したのがバレたらまずいことになるんだ。詳しくは言えないが、また夏休みが終わったら学校で話そうな!」

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