第45話

「朱里はまず何から食べたい?」


「んー、タコヤキかな。次は焼きそばに唐揚げに……」


「ぷっ……ははっ。朱里は食い物ばっかだな」


私が食べ物ばかりを口に出すと黒炎くんはお腹を抱えて笑い出す。途端に恥ずかしくなった私は「わ、悪い?」と照れながら返す。


「夏祭りは食べ物だけじゃなくて金魚すくいや射的だったり他にもあるだろ? ってことだ。そんなに腹減ってるんだなと思ったら、つい笑いがこみ上げて来たんだ」


「それにしたって黒炎くん笑いすぎ!」


もう! と言いながら、私は黒炎くんの胸を軽く叩く。


「悪い悪い。まぁ俺も腹減ってるのは同じだし、この際、腹いっぱいになるまで食べるのもアリかもな」


「それ、食べ歩きみたいでいいね! 楽しそう!」


「よし、やるか」


こうして私たちはお腹いっぱいになるまで食べ歩きをすることにした。


小さい頃もこうやって黒炎くんと夏祭りを楽しんだ気がする。あの時は夜は危ないからって親も一緒だったけど、それでもいい思い出だったことは覚えている。


「ん、このタコヤキ美味いな。朱里も食うか? ほら」


「え、えーと……」


何故か、黒炎くんからあーんをされている。恥ずかしいけど、ここで断ってもなんだか変な空気になっても嫌だし。


「モグッ。んー、確かにフワフワだし美味しい!」


「だよな!」


黒炎くんは気にしていない様子だった。相変わらず鈍感なんだなぁ〜。そういうちょっとした態度が女の子を勘違いさせたりするのに。だけど、タコヤキは本当に美味しかった。


「やっぱり夏祭りといったら射的だよな!」


「え、そうなの?」


私は、ハトが豆鉄砲を食らったみたいにポカンとした。


「銃ってなんかカッコ良くないか? ゲームだとよくやるけど、現実だとなかなか触れる機会なんてないからな。先に射的してもいいか?」


黒炎くん、そういうジャンルのゲームもするの、なんか意外。勝手にギャルゲー一筋って思ってたから。これは私の偏見だけど。


目がキラキラしてる。黒炎くんにも子供ぽっいところはやっぱりあるんだね。


「わかった、いいよ。ただ、私は出来ないから見てるだけになるけど」


「じゃあ、欲しい景品があったら朱里にやるよ。ただ、リアルで射的は初めてだから上手く出来るかわからないけどな」


「ありがとう」


* * *


「取れなかった……」


「黒炎くん、大丈夫だよ。ああいうのは慣れっていうし、次は上手くいくよ」


私は、しょんぼりしてる黒炎くんを慰めていた。結局、射的は難しかったようで一度も景品は取れずじまいだった。


だけど、なんでもできる黒炎くんにも出来ないことがあってちょっと嬉しかった。だって、凄く悔しがってる黒炎くんはなんだか可愛かったから。


「ゲームで練習して来年こそは朱里にカッコいいところ見せてやるからな!」


今でも十分カッコいいのに。って、そこは現実じゃなくてゲームで練習なんだね。でも、そういうところは、いつもの黒炎くんらしいね。


「うん、楽しみにしてる」


黒炎くんは気にしてないかもしれないけど、“ 来年こそ”って言葉が私はとても嬉しく思えた。

だって、来年もこうして黒炎くんと夏祭りに来るってことだよね?


来年も黒炎くんと夏祭りを楽しめますように……と私は神様にお願いした。これは、ほんの小さな願い事。

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