第36話
私は会長さんの腕を掴んだ。どうしても黒炎くんに繋がる何かが欲しくて。
急に引っ越した理由は親の離婚だって思ってたから。そんなの私の想像に過ぎないから、今までそう思うことで自分を納得させてきた。でも、本当は黒炎くんが引っ越した本当の理由が知りたくてムズムズしていた。
「残念ですが、それを貴方……霧姫朱里に話すことは出来ません」
「どうしてですか!?」
「貴方は自分の秘密を自分が知らないところで知られていたら、どんな気持ちになりますか」
「それ、は……凄く、嫌な気持ちになります」
やっぱり会長さんは私なんかよりずっと大人だ。黒炎くんと同じ立場になってみれば簡単な話なのに、どうしてそれに気付くことが出来なかったんだろう。黒炎くんのことを知りたいあまりに気持ちが先走っていたのかもしれない。
「理解したようで安心しました。……柊黒炎が貴方に過去のことを話すその日まで待ってあげてください。誰だって心に闇を抱えているものでしょう?」
「私に闇なんて……」
そんなことない! と焦る私を見て会長は話を続けた。
「彼に好意を抱いているのでは?」
「黒炎くんのことは好きですけど……って、会長さんって案外意地悪だったりします?」
カマをかけられたことに気付いた私はムッと頬を膨らませた。
「さぁ、なんのことでしょうか」
「やっぱり意地悪です! ふふっ」
「……どうして、そこで笑いが出るんですか」
会長さんはわからないと言った表情をこちらに向けてくる。不覚にも会長さんの可愛いと思う自分がいた。
「やっぱり人の噂ってアテにならないんだなって思って」
私が口元を隠しながら笑っていると、「貴方はそのほうが良いですよ」と優しい言葉をかけてくれた。だけど、私が笑っている理由は今ひとつわかっていないようだ。
会長さんは最初に堅物だってイメージがつきすぎて話しにくいと思っていたけど、実際は助けてくれるし手当てもして、痛みを忘れるようにたわいのない会話をして気を遣ってくれるいい先輩だ。
「あの、迷惑でないなら……恋の相談とか時々でいいから乗ってくれませんか?」
「生徒の悩みを解決するのは生徒会長の役目ですから構いませんよ。ただ自分は交際したことがないので、あくまで相談に乗るだけですが」
「ありがとうございます! 会長さんと話してたらなんか元気出ちゃいました」
えへへとアホな顔になる私。って、あんなにモテるのに付き合ったことないとか意外。
遠くから「一年集まれー」と先生からの集合の声がかかる。
「会長さん、改めて色々ありがとうございました! 先生が呼んでるので行きますね」
ペコッと軽くお辞儀をして、先生の元に向かった。
「よし、集まったな。今からお前たちには洞窟に入ってお札を持って戻ってくること。ようは肝試しのようなものだ! 2人1組だからな。これも思い出作りの1つだ、楽しんでこい」
「先生勘弁してくださいよー。怖いの苦手なんですから」
「俺は賛成! めっちゃ面白そう!」
まわりは先生の提案で暗いのが苦手という者もいれば、楽しそうという人もいた。
「クジだと私と一緒。朱里ちゃん、よろしくね」
「遥ちゃんと一緒か〜、こっちこそ、よろしくね!」
知ってる人で安心したけど、黒炎くんは女の子と一緒だったりするのかな? と考えるとまた胸の奥がピリッと痛くなった。
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