第20話

(この状況って、まるで恋人みたい)


隣を見ると黒炎くんの横顔。横から見ても整った顔立ちしてるなぁと見とれていた。けど恥ずかしさの感情のほうが強くて、なかなか近付けずにいた。


「朱里。そんな離れてると濡れるぞ?」


そう言うと黒炎くんは傘を持っていない手で、グイッと私の肩を自分のほうに寄せた。


「風邪引いたら大変だろ?」


「あ、ありがとう」


傘を持ってくれるだけじゃなくて私の体調まで気遣ってくれるんだ。やっぱり優しい。


触れられた肩が妙に熱い。黒炎くんがこんなにも近いはずなのに、遠い気がするのは何故だろう。


これ以上期待させるようなことをしないでと強く言えたらどんなにいいだろう。


「朱里。スマホ光ってるぞ」 


「え? あ、お母さんからだ」


メールの内容は「今日はパパとの記念日で家にいません。一人家に置いておくのも危ないし、朱里は友達の家に泊まってね」と書かれていた。


(そうだ、今日だった)


メールの内容を見て、ふと昔のことを思い出していた。そういえば小さい頃は親が留守のときはよく黒炎くんの家に泊まりに行ってたっけな。凄く懐かしい。あれ? あのとき、黒炎くんの親に会ったかな? よく覚えていない。

黒炎くんが引っ越してからは友達の家に泊めてもらっていた。


「今日、親の結婚記念日で…帰っても一人なんだ」


流石に高校生になった今気軽に泊めてほしいなんて言えない。それに黒炎くんはアカリちゃんと一緒に暮らしてるわけだし。


いつもは覚えているから予め頼んでおくんだけど今日はいきなりだからなぁ、難しいだろうな。


…案の定、友達からはいきなりは難しいと断られてしまった。もう高校生なんだし、留守番くらい一人で出来るもん! と思った矢先、家の鍵がないことに気付く。


「え、嘘…!」


朝、鍵を閉めていったからあるはずなのに鞄の中を探してもどこにも見当たらなかった。傘といい、鍵といい、今日はよく物を無くす日だなぁ。

お弁当箱をとる時には鍵はあったのは確認したから、おそらくそのあとだろう。うーん、思い出せない。けど、多分学校で落とした気がする。明日は早めに学校に行って確認してみるか。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る