第16話

「ここ、どうやって解くの‥‥」


図書室で勉強を始めて15分ほどが経った頃、私はわからない問題にあたり苦戦していた。


「朱里? 帰ったんじゃなかったのか?」


「こ、黒炎くん!?」


後ろから声をかけられ驚く私。秘書さんから「静かに」と言われ「すみません」と遠くから頭を下げるジェスチャーをした。だけど、まさか黒炎くんが図書室にいるなんて意外だった。


「すぐに教室を出て勉強してたの。実はテスト範囲でわからない所があって‥‥」


「朱里は真面目だな。で、どこがわからないんだ?」


私の隣に座り、そのままこっちに近付いてきた黒炎くん。


耳に息がかかって、くすぐったい。っていうか、近すぎる! 


「ここ、なんだけど」


「ああ、それはこの公式を当てはめれば解けるぜ」


「ありがとう! 黒炎くんってもしかして家で勉強してたりする?」


はっ! この質問はまずかった。と後悔しても既に遅かった。


「家ではギャルゲーばかりだな! 授業聞いてれば大体わかるだろ?」


恥ずかしげもなく、ギャルゲーの話を出す黒炎くんは本当に凄い。別の意味で尊敬するよ。


「え‥‥自主学習とかってしないの?」


「‥‥?」


黒炎くんは「なんのことだ?」と言わんばかりに頭を傾げていた。もしかしなくても、私の好きな人は勉強も出来る完璧な人では!? と思ったけど前言撤回。世の中に完璧な人なんていないよね。


「流石に遅くなるとアカリに心配かけるから、少しの時間なら俺がわかる範囲で勉強教えてやれるぞ」


「是非お願いします!」


ここは同級生だろうと好きな人だろうと恥を捨てる覚悟だ。私は黒炎くんの空いてる時間に勉強を教えてもらうこととなった。


これって、今考えたら好きな人とお勉強会ってやつなのでは!? と心の中で喜ぶ私だった。


「でも、明後日からGWに入るな。GW中でも午前中だけだが図書室は開放してくれるみたいだし、教えてやれるがどうする?」


「ま、毎日早起きは難しいかも‥‥」


黒炎くんからせっかくのお誘いなのに朝が弱いせいで断ってしまった。今、すごく勿体ないことをしてしまった気がする。


「休みモードに入ると起きれなくなる癖、なおってなかったんだな。小学生の夏休みの頃もそんな感じだったよな。って、GW中毎日学校来るつもりだったのか?」


「誰だって休日の時くらいゆっくり寝てたいよ。そ、それは……」


(黒炎くんに休みの日も毎日会えると思うと嬉しいよ)


なんて思っていたけど恥ずかしくて言葉には出せなかった。黒炎くんには「真面目だな」って言われたけど、それは違う。勉強はあくまでも二の次。


本当は勉強を口実にして黒炎くんに会えるのが楽しみ……って、そんな悠長に身構えていたらそれこそ赤点まっしぐらコースな気がする。


他愛もない会話をしつつ、勉強を続けた。わからないことがあれば、黒炎くんに聞くという形で。解く前から全部教えてもらっていたら、自分で勉強したって言えないしね。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る