第42話 夏休みの計画。
「スイカ切れましたよ~」
キッチンの方からユキの透き通った声がすると、待ってましたと言わんばかりにユキの妹である
「すいかすいか~!」
「あ、小雪ちゃん! 部屋の中で走ると危ないよ!」
「小雪様! 僕がボディーガード致します!」
サユキに続いて駆け出す星乃と磯貝。
サユキ様はいつだって、どこでだってお姫様扱いである。可愛いのだから仕方ない。
というのは置いておいて、夏休みもスタートしてまもなくである今日は我が家にユキやサユキだけでなく星乃と磯貝までもが集まっていた。
今日はみんなで夏休みの計画を立てるらしい。
俺たちってそんなに仲良かっただろうか? とくに磯貝。いや、二人にはあの時の恩もある。ここは流れに身を任せるとしよう。
リビングまでスイカを運んでくると、サユキが小さな口を目一杯に広げてスイカにかじりつく。
「すいかおいしいね~えーしくん」
「えーしくん………? そ、それはもしや僕のことですか小雪様!」
「そうだよ~? だってぶたさんやめたんだもんね?」
「まさか僕を名前で呼んでくれる人がいるなんて………うぅ、一生お供します! 小雪様!」
「うむ、くるしゅーない!」
にぱっと笑うサユキ。そんな二人をよそに、俺と星乃は顔を見合わせた。
「磯貝くんの名前って衛士くんっていうんだ………忘れてたよ………」
「いや、マジでそれな」
「うるさいぞそこの無礼者ども!」
「いやだって誰も覚えてないと思うよ? 自己紹介したのってたぶん初登場時の一回だけだし」
「むしろその場にいなかったはずなのに知ってたサユキが天才だな」
「サユてんさーい」
「うおおお………小雪様ぁ………!」
泣きながらスイカにかぶりつく磯貝。そんな磯貝の頭をサユキが背伸びをしながらスイカでべとべとの手で撫でていた。すばらしい光景だ。
ちなみに、サユキが言っていた磯貝がブタをやめたというのはそのままの意味である。ユキと俺が正式に付き合い始めたことにより、親衛隊は事実上の解散となった。
多くの親衛隊は涙ながらにユキを祝福し(俺は祝福されていない)、現在はただのファンクラブ程度のものとなっている。あとはサユキの遊び相手をしたり、だろうか。
特に荒れるようなこともなかったあたり、親衛隊たちは一応俺を認めていてくれたのだろうか? それとも、磯貝が取りまとめてくれたのかもしれない。
とにかくユキ周りによくわからん男どもが寄り付かなくなって俺としては万々歳である。まあ、磯貝だけは未だに居座っているのだが。とりあえずは俺とユキ共通の友人、いや、共通の知り合い枠ということにしておこう。
「ところで、夏帆さん。今日の集まりの趣旨ですが………」
キッチンからみんなより一足遅く戻ってきたユキがサユキの口元や手を優しく拭きながらそう切り出すと、サユキと同じくらいに口をべとべとにした星乃が勢い込んで答える。おい、おまえは自分で拭け。
「うん! 夏休みの計画! だよ!」
「計画、ですか。でもなぜそれをみんなで決めるのでしょう?」
「みんなで一緒に何かしようって話だよ!?」
「でも、私とヒロさんの予定はもう埋まってますよ?」
「ええ!? 二人で何するの!?」
「何って………そんなのナニに決まってるじゃないですか」
「「ナニ!?」」
あっけらかんと言い放つユキと、同時に叫ぶ星乃と磯貝。ああ………、俺の幼馴染は向かうところ敵なしなのだろうか。そういうことを人前で、しかもクラスメイトの前で言わんといて。てか、そんな予定は立ててません。
それからすすすっと俺の隣へとポジショニングをとるユキ。頼むから俺を巻き込まないでぇ………。
「おいどういうことだ
「そ、そうだよ! ていうか毎日するの!? その予定でびっちしなの!? えっち! えっちだよ!」
「いや落ち着け。落ち着けおまえら」
磯貝とか声裏返ってるし。星乃はサユキがいるのにそんな直接的な言葉を使うんじゃありません。
ちらと見ると、サユキは未だスイカに夢中でこちらの話は耳に入っていなかったらしい。良かった………。
「ぜんぶユキの冗談だ。だから落ち着け」
「そうですね。さすがに毎日は疲れますもんね」
ちょ、ユキさん!?
「毎日じゃないけどナニしてるんだ………」
「浅間紘貴様ぁ! 避妊はちゃんとしてるんだろうなぁ!?」
「心配するとこそこかぁ!? てか泣くなキモチワルイ!」
俺の肩を両手でつかんで揺らす磯貝をなんとか引きはがす。
しかしこのままでは全然話が進まん!
閑話休題。
「でさ、みんなで夏休み中にどこか遊びに行けたらって思うんだけど、どうかな?」
星乃はユキにお伺いを立てるように言う。
「ふむ。まあ数日くらいなら構いませんよ。ヒロさんが一緒なら、どこでもデートみたいなものですし。ね、ヒロさん?」
「おう。てか俺は別に最初から反対してないしな」
「そっかぁ………よかったぁ。そ、それでねっ、どこに行くかなんだけどっ」
星乃はほっと一息つきながら話を進める。
すると磯貝がやけにやる気に満ちた表情で俺たちの前に出た。いや、そもそも磯貝は星乃の言う「みんな」に入ってない可能性があるのだが。そんなにやる気出して大丈夫か?
「どこに行くか? そんなものは決まっているだろう」
「え? どこどこ?」
「海だ!!」
「海! いいね! 珍しくナイスだね磯貝くん!」
「だろう!?」
ふふんと鼻を鳴らす磯貝。
よかったな磯貝、おまえも「みんな」に入ってたみたいだ。
それにしても、海かぁ。俺としてはあまり気が進まなかった。
「いや、海よりもっといろいろあるだろ。ほら、遊園地とか」
「ええ~遊園地もいいけど、やっぱり夏と言えばまず海じゃない!?」
「むう………まあ、そうか」
特に良い代替え案もない俺は押し黙るしかなかった。そんな俺に、ユキがこそっと俺にだけ聞こえるようにささやく。
「大丈夫ですよ、ヒロさん。私が一緒ですから」
「いやでも俺は………」
「それともヒロさん。私の水着、見たくないですか?」
「うっ。それは………」
「海で見る水着はまた一味違うものだと思いますよ?」
「わ、わかったよ。海でいい。いや、海にしよう!」
ユキの誘惑に負けた俺は星乃たちにも聞こえるように言った。
「やった! じゃあ海に決まりだね!」
「夏の海で友人と海水浴! なんという青春! 今から準備を進めなければ!」
「………ウミ? サユも~サユもいく~」
「サユちゃん? サユちゃんまで連れて行くのはさすがに………。どうしましょうヒロさん」
「別にいいんじゃないか? 俺たちがちゃんと見てれば。っていうか………」
俺はんっと顎で磯貝を指す。
「僕が完璧にボディーガードします! 僕だけでは足りないようならその日に限り応援を呼びましょう!」
「………そうですか。それなら、お願いしてもいいですか? 磯貝さん」
「お任せください!」
「やったあ~サユもウミ~。えーしくんとウミ~」
喜ぶサユキ。それにしてもサユキはいつの間にあんなに磯貝に懐いたのだろうか。なんだか少し寂しい。
しかしそれはそれとして。こうして、海水浴の予定が決まったのだった。
「楽しみですね。ヒロさん」
「まあ、そうだな」
少しの不安があるにはあるのだが、楽しみなのは間違いない。水着とか水着とか水着とか。
と、これで今日の本題は終わりだろうか?
そう思ったとき、星乃が妙に畏まった様子で言った。
「あ、あの! 今日はもうひとつ、………お話というか、相談があるのですが! よろしいでしょうか!?」
その様子は、いつかのあの時の恋愛相談を思い出すものだった。
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