第38話 俺の恋人がエロ可愛すぎてヤバい。
「ヒロさんヒロさん。お夕飯は何が食べたいですか?」
雨上がりの虹を眺めた後、俺たちは夕方の商店街を歩いていた。
並んで歩く二人の手はしっかりと繋がれている。初めての、恋人繋ぎだ。
指の一本一本が絡み合っている。ユキの指ってこんなに細かったんだなとか、少し冷たいなとか、そんなことを思って。気恥ずかしくて。照れくさかった。
だけど絶対に離しはしないと、そんなことも思った。
俺は顔が熱くなるのを感じながらも、ユキの質問に答える。
「そうだなぁ、…………カレー、とか」
「カレー、ですか。……ふふっ。そうですね。とってもいいと思います」
ユキがまた嬉しそうに笑った。
きっと、俺が考えてることなんてお見通しなのだろう。
「覚えていてくれたんですね」
「……そりゃな。初めて食ったユキの手料理だし」
そう、カレー。それはユキが初めて俺のために作ってくれた料理。カレーが好きだと言った俺のために、初めて包丁を握って。作ってくれたんだ。
だから、今日から新しく始まる俺たちの物語にはそれが相応しいと思った。
「もちろん、甘口ですよね?」
「ええ……それはちょっと、…………いや、やっぱり甘口がいいかな」
「ほんとですか?」
「ああ、今日はな」
「やたっ」
ユキがぴょんと跳ねて喜ぶ。
普段は俺に合わせて中辛のカレーを作ってくれているのだ。ユキだって、辛いものが食べられない年ではない。
でも今日は甘口がいい。
辛いのに耐えて少し汗をかきながらも、はふはふと美味しそうにカレーを頬張るユキも可愛いから。それが見れないのは少し惜しいけれど。
でも、甘口ならもっともっと可愛い顔を見せてくれるかな。それならやっぱりその方がいい。
「それではまず、八百屋さんへ向かいましょう。荷物持ちはお願いしますね?」
「おう。任された」
「ありがとうございます。では、ヒロさんヒロさん」
ユキは繋がれた手を引いて、俺を少し屈ませる。
視線が重なった。目の前にユキの綺麗な顔があった。
「ちゅ…………」
そう思ったときには俺とユキの唇は重なり合っていて。俺の唇はまた、奪われてしまった。
名残惜しそうに唇を離したユキは、悪戯が成功した子どもみたいに無邪気な笑みを見せる。
それからもう一つおまけだとでも言うように、啄むようなキスをした。
俺はフリーズしてしまったかのように固まってしまい、抵抗のしようもない。
「荷物持ちをしてくれるお礼ですよ。先払いです」
「お礼って……人目あるんだからさぁ……!」
我に帰った俺は必死に抗議の視線を向ける。
するとユキは逃げるみたいに手を離して、駆け出した。それから俺の2、3歩前で手を大きく広げて、見せびらかすみたいにして言う。
「いいじゃないですか。見せつけてあげましょう。私たちはもう、幼馴染以上の関係なんだぞ〜。恋人同士なんだぞ〜って。幸せなんだぞ〜って!」
周りの視線がちょっとだけ集まる。
でもユキは頬を赤く染めているくせに、そんなことはお構いなしだ。
「……ダメですか?」
「いや……ダメじゃ、ないけど……」
甘えるように言うユキ。
そんなユキを見たら、俺はもう異議を唱えることなんて出来るわけがないんだ。
「大丈夫です。きっとみなさん、祝福してくれますよ」
ユキは慈しむように、商店街を見渡す。
この商店街の人たちならきっと、俺たちを見たことのある人は多いだろう。
何せ10年前から一緒なのだから。
特にお店の人なら、ユキのことは知っているはすだ。いい意味で、その銀色は目立つだろうから。
その人たちは今の俺たちを見て、どう思うんだろうか。
ユキが言うように、祝福してくれるだろうか。微笑ましく思うだろうか。暖かく見守ってくれるだろうか。
そうだといいなと、思った。
それくらいの、あったかい幸せがあればいいなと、思った。
✳︎ ✳︎ ✳︎
それから買い物をして、一緒にカレーを食べて、一緒にお風呂に入って(2人とも水着で)、たくさんの話をした。
ユキは事あるごとにキスをせがんできて。俺もそれに応えた。
カレー味のキスにはお互い苦笑いだったけど。すべてが楽しくて、嬉しかった。
今は2人寄り添ってソファーに座り、何をするわけでもなく時間を共有していた。
もう夜もいい時間だ。
「なぁユキ、帰らなくて大丈夫なのか?」
「ヒロさんは私に帰って欲しいんですか?」
「いやそういうわけじゃないけど……」
「大丈夫ですよ。お母さんにはお泊まりしてくると言ってあるので」
「お泊まりって、ウチに?」
「はい」
「なぜに?」
「なぜって、初夜だからですよ?」
「え?」
きょとんしているユキ。いやきょとんとしたいのは俺なんだが。
なんだよ初夜って。まだ結婚してねーよ。
「えっち、したくありませんか?」
「いやそれは……その……」
したい!
けど、いいのか?
こんな付き合ってすぐなんて。
もうちょっと関係を深めてからでも……って俺たちはすでにその段階を終えているのか?
なら、いいのだろうか。
ユキが正しいのだろうか。
「何か、したくない理由があるんですか?」
こてんと首を傾げて、質問攻めを続けるユキ。やばい。可愛い。もう抱きしめてしまいたい。
しかしえっちをしたくない理由というか、不安はある。
それは以前のような小難しい話じゃなくて。ただただ、上手くやれるかという不安である。目の前のエロ可愛な彼女を満足させられるのだろうかという不安である。
できればもう少し、イメトレの時間が欲しかったなぁ。こんなことならもっとえっちの勉強をしておくべきだった。
でもここで断るなんてこと出来るわけないから。また情けない自分にはなりたくないから。俺は覚悟を決める。
「いや、ないよ」
「それなら……」
「ああ、しよう」
俺は顔を綻ばせたユキの手を引いて、寝室の方へ連れ出す。すでに熱くなっている顔がバレないように、少し強引にだ。
「あ、ちょっと待ってください。ヒロさん」
「なんだ?」
「服装はどうしましょうか?」
「は……?」
「学校の制服、メイド服、水着メイド、スクール水着。よりどりみどりですよ?」
「いやそのまんまでいいんじゃねぇのぉ!?」
ユキはふわふわな感じのパジャマを着ていた。そのままで十分可愛い。
というか、初えっちからそんなコスプレとかさせないから……。
それにやっぱり、一糸纏わぬ姿のユキが見てみたいとも思う。
「むぅ……残念です。でもそれは、これからのお楽しみですね」
ふざけているというわけでもなく、至って真面目な思案顔のユキ。
イマイチそういう雰囲気にもっていけてないんだよなぁ……。
未だ幼馴染気分が抜けないのだろうか。幼馴染の会話としてもすこぶるおかしいとは思うけれど。
でも俺たちはそれでいい。いや、それがいいのかもしれない。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「ヒロさんヒロさん。私の身体、どうでしたか?」
「それはその……」
「はい」
隣に寝転ぶユキはにま〜っと笑って続きを促してくる。
俺たちは今、ひとつのベッドに2人並んで寝ていた。もちろん、裸だ。これはいわゆる、ピロートークというやつなのだろう。
「最高だった。ほんとに」
「……良かったです。私も、とってもとっても嬉しくて。気持ち良くて。もう死んじゃってもいいかもしれません」
「死ぬには早いだろ」
「そうですね。これからもたくさんたくさん、えっちしなきゃですから」
「いや、他にも色々あるからね?」
「はい。2人で色んなことをしましょう。一緒に笑い合いましょう」
「ああ」
それだけで、俺たちは幸せになれるはずだから。
そんな、2人に寄り添うような幸せがそばにあればいい。そう願う。
銀色の幸せって、きっとそういうものだ。俺たちに寄り添ってくれるものだ。宿ってくれるものだ。
俺たちはこれからの人生で、それを体現していこう。
ユキと2人で。ずっとずっと、銀色の世界を歩んでいこう。
もう迷うことはなしない。ユキを幸せにできるかどうかじゃない。幸せにするんだ。2人で、幸せになるんだ。
もう後戻りはできない。しない。
銀色の物語はきっと今日、新たに始まったのだから。
「————はむっ」
「うひゃん!?」
幸せな気分に浸りながら決意を新たにしていると、ユキが俺の耳を優しく甘噛みした。
耳を責めるのはやめて。ぞわぞわする。気持ちよくなっちゃう。
それからユキは布団の中で手をゴソゴソと動かし、俺の股間に手を当てる。
「あは。ちょっと触っただけなのに。お○ん○ん様、もう元気になってますよ?」
少し身体を起こしたユキが上目遣いで、俺の表情を楽しむように見る。
もう完全にスイッチが入っている目だ。具体的に言うとハート。
きっと下手くそだっただろう俺が、一回でこのエロ可愛な恋人を満足させられるはずなんかなく。
さっきはお互い初めてだったから。俺がリードして男の威厳を保ったつもりだったけど。
今度はしっかり襲われてしまうらしい。貪られてしまうらしい。
「二回戦突入ですね。ヒロさん。今度は私が、気持ちよくしてあげます♡」
ユキはちろっと舌舐めずりをして、妖艶な笑みを浮かべていた。
そんな彼女を見て、俺は思う。
何度も、何度でも。思ってしまうんだ。
ああ、やっぱり俺の幼馴染であり恋人は、最高にエロ可愛い————。
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