最終章 【レイカ】からの、【ヒビキ】(4/4)[最終回]

 セイラが窓の外を見ながらぼそっと言った。

「レイカって何なの? PKの自覚、なんもない。シオネやココロに会わせたのムダだった?」

 PK、プレイヤー・キラー。自分のキルを稼ぐため敵味方見境なく殺すはぐれ者。ゲームでもっとも忌み嫌われる存在。

「辻沢に帰って来たくらいだし、実はちゃんと分かってるかもよ」

「ふつー分かるよね、そもそもレイカの髪型とか容姿、あの頃とまったく変わってない。ずるくない?」

 確かに、レイカは高校入学当時からまったく変化ないよな。

「でしょ。宮木野さんが、レイカのことも『犬歯を牙とするもの』って言ったときレイカがうんうんって頷いてたの見て、『レイカあんた犬歯ないから』って突っ込みたかったもん」

あれはモチベを保つために宮木野さんが打ったレイカ向けの小芝居だけどね。

それに、あの時ホントのこと言ったら、それこそモチベ、ダダ下がりだったろうし。

だって、真実の父親殺しに行くんだから。

「歯並びのことだってそう。たちつてと言いにくそうとか」

「レイカの中学の時のあだ名、とっとこネズタローだったしね」

「レイカのボケはヤマハイ仕込みってレベルじゃないよ」

 あれからスオウさんに色々聞いたけど、センプクさんの母乳でレイカをヴァンパイアにしたってのもホントーかよ、だし。

だったらヴァンパイアみんな赤ん坊の格好してるだろって。

だから今回のことは全部、レイカのママのギミックだったんじゃないかって思う。


 レイカのママが作った時限爆弾、それがレイカだった。

けど、あたしがレイカのママのメッセージを間違えて送らなかったら、レイカは永遠に辻沢に帰って来なかったかもなんだよな。

そのせいでこの一連の出来事の意味を未だにあたしは見出だせていない。


 本当はレイカのママはレイカ爆弾を起爆させるつもりはなかったともいえそうだけど、そこをさらに踏み込むと、

今回のことで一番目的を果たしたのはセンプクさんとツジカワさんたちだった。

いけ好かない養父を排除して、囚われの姉妹を助け出し、それを調家の娘に実行させた。

それはレイカのママが願ったことでもあるんだよね。

(「かわいそうな女の子たちを助けてあげて」)

だから、自分の死期を悟ったレイカのママは、時限爆弾だけ用意して、あとは2人の「かわいそうな女の子たち」の知力に、そして生命力に賭けたんじゃなかったろうか。


いや、違うな。レイカのママはそんな甘っちょろい女じゃない。


もう一つは、これが完全な復讐劇だったという線だ。しかもそれは至極単純な計画だった。

という。

それを成し遂げるのため宮木野や社長を自分の死をもって黙らせた。それくらいする女だったんじゃないかな。

 いずれにせよ、結局あたしらみんな、レイカのママのジョーロリで踊る人形だったってこと。

あたしとセイラも、ココロとシオネの弔い合戦の思いはあったけど、あたしらも宮木野さんも、社長もあの怪物たちを殺す理由なんてレイカのママほどはなかった。

 じゃあ、あたしたちは何のために戦ったのか。

それは多分、女バスの仲間のため。

そしてあたしたちが新しい一歩を踏み出すため。

……トール道だった。

だよね、川田先生。

 本当の親のヴァンパイアが死なない限りココロはあのままだけど、

ココロはそれでいいって言ってる気がするんだ。

だからこれ以上の復讐は放棄する。


「ボケだけじゃないんじゃない」

「そうだね。そこらへん、バイアスかかってそう。でも、どんな?」

「レイカのママの?」

「ありえそー。おかーさんなら、娘が苦しんでるの見てたくないもん」

「おかーさんは、あなたのことを思ってしてるのよ」

「それー笑」

 そうなんだよね。娘のあたしらからしたら母親のすることなんて迷惑なことの方が圧倒的に多いけど、やっぱり母親は娘をなんとかしてやりたいんだよね。

それが愛だって思ってるから。牙が生えた愛。


セイラが暗さを取り戻した夜空を見ながら言った。

「レイカ大丈夫かな? きっとまた裸でひっくり返ってる」

「無邪気な顔してね」

「助けに行く?」

「とりま、何か着せてやらないと」

「「しょうがない子だねぇ」」

 セイラもすこし上気した感じで、

「なんだか、セイラも子ネコちゃんたちに会いたくなっちゃったな」

「ココロとシオネに?」

「うん。でも、セイラたくさんお肉食べて、いっぱい血を作らなきゃ」

「後でヤオマンBPCってのはどう? ゴリゴリポイント貯まってるんだよね」

「セイラのこと誘ってる?」

「うん、誘ってる」

「一緒に行きたい?」

「うん、行きたい」

「じゃあ、一緒に行く」

「行こう」

 エクサスのエンジンをかけると、心地よい振動が総皮のシートから全身に伝わって来た。

ずっと待ち望んでた感覚。

アクセルを踏み込むとセイラが小さく叫び声をあげた。

その暴力的な加速に思わず笑いが込み上げてきた。


<終わり>

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