最終章 【レイカ】からの、【ヒビキ】(3/4)

 エクサスLFAの車内を静寂が支配している。

音と言えば、セイラのPCから聞こえてくるくぐもった声だけ。

それは普段とは違う薄気味悪い会長の声だった。

〈あ、気付いた? いっとくけど、このカメラ赤外線対応だから。

あんたらカメラに映らないらしいが、動きぐらいは分かるようになった。

バージョンアップってやつさ。

うちの技術陣は優秀でね。どこよりも短い工数が自慢。

わが社のモットーは「拙速を尊ぶ」。

ヤオマン・システム・ソフトウエアをよろしく。

ちょっと宣伝〉

〈あんた何者?〉

〈ヤッチャ場から人気ゲームアプリまで。

皆様の暮らしを微に入り細に入りサポートする、ヤオマン・ホールディングス会長、前園満太郎です。あ、名刺切らしちゃってる。

でも、これから死んでく人には不要だね〉

〈ヤッチャ場? あんたも町長の一味?〉

〈あいつは、僕の腰ぎんちゃく。ヤッチャ場のゴミ捨て場で野垂れ死にしそうになってたのを拾ってやったんだよ。小物だけど頭の回転は速かったんでね。

2か月前の役場の事故で死んだときはびっくりしたが、あとからヴァンパイアだったって聞いて、かえって清々したよ〉

〈みなさん見てらっしゃるんだろ。そんなことひけらかしていいのか?〉

〈心配ないよ。この実況中継は関係者しか見てないから。

今はテストフェーズなの。スレイヤー・R・リブートの〉

〈なら、なんで宣伝してんだよ〉

〈まずいところは“編集”(耳の横でチョキチョキ)して、後でゴリゴリ動画にアップ。まさに無駄のない経営術〉

〈なんだお前。何ポーズとってるんだ?〉

〈おしゃべりはこのくらいにしておこう。リスナーは移り気だから、すぐ他行っちゃうからね。

とっとと死んでください。

辻沢には、もうヴァンパイアは必要ないんで〉

〈ヴァンパイアいないと、『R』になんないだろが〉

〈あー、それ? ユーザーから要望があってね。

怪我するのは勘弁って。今度からキャスト雇ってやることにした。

「中の人なんていません」ってね〉

〈ふざけやがって、ウチらは張りぼてのぬいぐるみじゃねーぞ〉

〈知ってるよ。怪物だろ〉

ブウィイイイイイィィィィ。


「なんでカイチョー、行くって言ったんだろ」

「そんだけ期待されてるってことだよ、セイラは。

はい、これ昇進お祝い。

新プロジェクトリーダーさんへ」

「わー、カリンありがとう。開けていい?」

 包装紙を丁寧にはがして、たたんで、カバンにしまう。セイラらしい。

「欲しかったんだ、この本。

『女バスな人でもわかる プロジェクト進行』

ありがとう」


〈あれ? 変だな。チェーン・ソー回らない。

首に当たってるんだけど、どして?〉

 やってるやってる。

会長いつもと勝手が違うのそろそろ気づけや。

「こうやってトップが先頭に立ってやるから、うちのヤオマン・グループは勢いがあるんだろーけど笑」

「そうだけど笑。

レイカのこと侮りすぎだって。

カイチョーったらセイラに、

『なーにがヴァンパイアだ、デイ・ウォーカーだ。俺は無敵のアントレプレナーだ』

って言ってた。

女の子バカにしてると痛い目に合うのに」

「それな」

〈なに飲んでるの? ただのエナジードリンクじゃないよね。

試合はフェアーにいこうよ。ね。怪物さん〉


「あれ、やっぱり画面から消えちゃってる」

「ほんとだ。レイカ映ってないね」

「赤外線でもだめってこと? どーしよう」


おっと。

きたきた、地響き。

セイラどっか掴って(無声)。

すっごい振動。

「やばい。やばいって」

 車、大丈夫かな。

来た彩光!横道という横道から光が射してる。まぶしい。

空、夜が明けたみたいに明るい。

わっ! 衝撃波。

サイドガラス震えてる。

通りの向こうのビルの窓、一瞬で粉々になった。

土埃がすごい速さで目の前横切っていく。

言ったとーりになったよ。

周囲にザーと音を立てて土埃やガラス破片が降ってきて、やんだ。

ようやくおさまった?

「セイラ大丈夫?」

「うん。ホントにすごいね、レイカの衝撃光は」

「太陽コロナなみ。デイ・ウォーカーどころじゃないよ」

 レイカのママが一番タフだと言っていたのがよくわかる。

あれじゃ、だれも太刀打ちできない。

それを何も分からないで、あたしたちは解き放ってしまった。

本当にこれでよかったんだろうか、悩む。

「車、ビルの影に停めといてよかったね、カリン」

「今度のは大切に乗らなきゃね」

「車出してくれて、ありがと」

「いいって、セイラ」

 これで納品完了。

社長に完了メール打ってと。

今日はここまで。

詳細は、さすがに社長に会って話さないと。

一応配偶者始末したんだから。

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