第二三章 【レイカ】(3/4)

 カリンの紫キャベツで六道辻のミワちゃんのうちまで来た。

少し車酔いしたみたい。セイラとナナミも一緒。

でも二人は車で待っててね。


玄関わきの垣根の花は、今はほとんどくたってる。やっぱ。ここは、

「「たのもー」」

 って、返事ないよね。

「「御邪魔しまーす」」(小声)


カゲゼンした部屋。いない。

ミワちゃんの部屋。誰もいない。

ずっとまっすぐ行って雪隠。いないな。

どこにいるんだろ。お出かけ? なら、タイミング悪スギしょ。

「ごきげんよう」

 ヒッーーーーーーーッヒ。

「中村先生のお部屋を教えてもらおうか。辻王の娘と、そちらは、この間の修学旅行生」

 やっぱ、あんただったのか。

見たことあると思ったら、与一さん。

「何をしに来たのだ?」

 この人、線が細いのにすごい威圧感ある。

「宮木野さんから、ジョーロリの手ほどきしてもらえって言われまして」

「なに? 姉サアから? で、稽古は三味線でしてお貰いか?」

「はい、サワリの部分ですが」

「どれ、聞かせて御覧な」

「なげきのむちもあにぇはなおー。

いもとがしぇなを、なで、おろしー。

おーお、そなやにおもやるももっとも。

しかし。

そなたがちちははに、なごおそやったみのかほおー。

これこのあねをみやいのおー」

 カリン、こんな芸があったんだ。

「ほう、よい声をしておるな。

しかし、やはりフシは語りがやらねばホンモノにはならぬの。

あたしがお稽古をつけてあげよう。

ささ、書院へ」

宮木野さんの言うとおりになった。

 ホントに後ろ姿も女の人だよ。

キレイだねー。美しいねー。

ウチもあんなになれたらいいのにな。

 ここ、カゲゼンした部屋だ。

「さ、もう一度、聞かせておくれな」

「なげきのむちもあにぇはなおー」(以下略)

 与一さん、さっきまでの威圧感どこいっちゃったの? 

「いい声だねー。ホントに。もう一度、お願いしようかね」

「なげきのむちもあにぇはなおー」(以下略)

 あれ? 与一さんの顔にしわが出来てきた。

なんだか体も縮んだような。

ホントーのおじいさんになって来た。

よし、今だ。ペットボトルのふたをきゅっと開けて、右手の床に置くんだったな。

「おやおや、すまないね。ちょうど喉が渇いてきたところだった。

辻王の娘も気が利くじゃないか。

どれ。おー、この香りは辻沢醍醐。

これをどこで手に入れたのだ?」

 え? 知らんない、そんなこと。

「えっと、宮木野さんが与一さんへって」

「そうか、そうか。

姉サアは、いつもつれないことをお言いでて、あたしをかららっていたのかね。

ミワや。これミワや。お茶の用意を。

おかしいね。ミワが全然返事をしないのだよ。

お風呂かね。あの子はお風呂が大好きだからね。

ちょっと覗きに行ってこようかね」

 こいつ、ホントにエロじじーなんだな。

「ミワちゃんなら、ついさっき買い出しに行ったみたいですよ。

小口ネギ切らしちゃったって」

「小口ネギ? だれがそんなものが必要なのかの? 

まあ、よい。

ささ、そこの茶碗を取っておくれな。

あたしの分をそれに分けて」

茶碗ってこれのことか。でっかい茶碗だな。

はい、半分ずっこ。

「よい香りぞ。これこそ辻沢醍醐。

母者宮木野の乳から作った源の滴ぞ。

味は似せられても、この香りは、なーかなか」

 なんか飲んでくれそーな感じ。

このままそれを、ゴっくんって。

「どうした修学旅行の娘。なぜ口を付けぬ」

「はい、あたしは好きではないので」

「そうか、そうか。なら、辻王の娘と二人で分けてしまうが、よいな」

 カリンうまく逃れたね。

うちは全力で、飲む真似っと。

「ささ、勢いよく飲まれよ。ロ乃辻は毎度、駆けつけで一気に飲みおったぞ」

「辻王の娘、どうした? 飲むふりなどして、何をしてやる? 飲まぬか、飲まぬば、あたしがこうして」

 すごいバニラの匂い。強烈。鼻の奥がツーンとするくらい。

痛い、痛いって。

肩を放せよ。爪が食い込んでんだろって。

与一またイケメンに戻ってる。やばい。

だから、やめろ! 

出っ歯、出てきてるから。

とっとこネズたろーになってるって。

ウチに飲ませるんじゃないの。

それは飲んじゃダメなの。

飲んだらヴァンパイア一瞬で死んじゃうから。

ウチはいいから、与一さんに飲ませるようのだから。

だめだって、口につっこむな……。

ウぐぐぐ。うぐ、ぐうぐ、うぐ、うぐ、うぐ。ごく。

のんじゃった。ケッコーうまかったよ。

ウチ、ミワちゃんの雑草スムージーのせいで舌バカになってんのかな。

「あさはかなり」

 ディスった? 女子を侮ると痛い目に合うよ。

「姉サアよ、見え透いた手を使うの。毒とは、さてもおなごぞ」

 また、ディスったね。

あんた取り返しのつかないことをしちゃったんだよ!

熱い。うおー、あついんですけどーーーーーー。

やけるよーーーに、あついです。

ウチ、体の中が、カッカしてきて。

まてこら、にがさねーぞ。

与一め。お前、散々女の子のことコケにしやがって。

ぜってーゆるさねーて。まてこら! 

ミワちゃんのことをバカにしやがって。


消・え・て・な・く・な・れ! 

ご・き・げ・ん・よ・う、だ!

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