第十八章 【ヒビキ】(2/2)
8階。ここが情報管理室。
誰もいない。ユサ、さっそくPCに張り付いてる。作業完了? 早いね。
「これ借りて行きまーす。明日、返却しますのでって、誰もいないけど、一応」
でっかいバインダー。
「それ何?」
「システム設計書。入社したての頃、セイラが命がけで作ったの」
命がけで? 頑張り方あってたんじゃない。
「でも、あいつが全部横取りした」
「あいつ?」
「YSS 砂川システム開発部チーフ」
「誰それ?」
「長坂モンキーズ幹事、ハンドルネーム、エイプ100」
あ!
「そう。ヒビキのおかげで、セイラ、SEに返り咲き!」
そうだったんだ。そういうことなら、あたしも死にそこなってよかったよ。
「さ、セイラ。議事堂へ」
セイラ、どうした? 立ち止まって。
「……やっと、仕事で名前呼んでくれたね。カリン」
また泣く。いままでごめんね、セイラ。
「ほら手を貸しなって、急ぐよ」
「うん」
上の階へ。
「ジョーシツの管理PCでしてたことって」
「議事堂にネット繋いどいた。スレッター見てもらうために」
センプクさんたち、待ってるな。ここからは、中階段。
わ! ドア開けたら蛭人間だらけ。
セイラ下がって! あぶなかった。でも、なんだか静かだな。もういちど覗いてみよう。逃げる準備して、開ける! 閉める! 動きなし。ひょっとして。
「カリン。ここの蛭人間、襲って来ないんじゃない?」
それ、考えてたところ。
理由は分からないけど、蛭人間反応ない。8階から10階まで2階分上がるだけだな。水平リーベ棒しっかり持ってっと。
「セイラ。なるべく音立てないように」
蛭人間、ゆっくり下に移動してる?
刺激臭で息できない。虫の巣に入ったみたい。足元がぬらぬらしてる。粘液状のものが床から壁から覆い尽くしてて、きもい。すごい数の改・ドラキュラやカーミラ・亜種が列を作って階段に並んでる。中階段、下まで全部こうなの? うわっ! 滑った。手を床に付けちゃった。ウエー、ネズミの死骸だ。カエルの死骸とかあっちこっちに。手貸してくれてありがと、セイラ。
あ、あの蛭人間、長坂モンキーズのTシャツ着てる。
ども、ご愁傷様です。
下はスカートって、人員不足の影響?
それにしても、この人たち、どうしてそば通っても反応しないの?
踊り場でわだかまってる。
こんなところに洗面台?
飛沫が飛んできた。臭い。
何してんだろ? 口から何か吐き出してる。
ひどい匂い。吐き気してきた。
「蛭人間って、吸飲した血を巣に持ち帰るってあったよね」
集めた血をここで吐き出してるのか。
確かここは9階、厚生課の裏にあたる。そういえば吐き出した後のメタボバラ、小さくなってるような。
こっち見てるのいる。知り合いじゃないよね。
んわ! なにすんの! やめって!
ゲロぶっかけられた。
逃げろ。はやく上まで。
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