第十一章 【レイカとヒビキ】(7/8)

「あれ、さっきの実況で映ってた倉庫じゃないかな」

 ちょっと広めの空き地。動くものはないっぽい。街灯が寂しげだ。

「さっきの実況、やっぱり同じ画面のまんま。うん、あの倉庫でいいみたい」

 停めるの? やめとこーよ。降りるの? 絶対ダメだって。降りた人が最初にやられるって思ってると、車の中にもうナンカが潜り込んでて、最初に車の中の人やられて逃げ道なくなって全滅なシチュだから。そうじゃなかったら、降りた途端倉庫からナンカが信じられない数出て来て、みんながやられる中必死で逃げ回って、一人だけ助かったと思ってほっとしたところを土の中とか、木の上とか思わぬ角度から襲われてどのみち全滅なシチュだから。でも、降りるのね。はい? ウチだけ? 

「ウチは動画撮らなきゃ。運転もあるし」

「セイラは、ゴマすらなきゃ」

 なに言ってんの、あんたたち。とくにセイラ。


 結局ウチか。一応武器って、なにこのホーキ。古い枯葉が積もってるから掃いてけって? ショージキいらない。で、なんでカレー☆パンマンの被り物すんの? どっから出て来た? 

「レイカ小顔だし、暗くて見えにくいから」

 なるほどって被っては見たけれど暑苦しいし見えにくい。ルームミラーにカレー☆パンマンの顔。悪くないね。


 懐中電灯持って外。なんか変な臭いしてる。しめった落ち葉が靴にくっついてくる。ウエアブルカメラを探せっていわれてもね、暗くてよくわからないよ。

「もちょっと、左のほうじゃないかな。あ、カレー☆パンマンとホーキ映った。右右、そっち左。そう、そのまま前」

 あてずっぽうにそこらじゅうを足ではらってたら、何か蹴った。ころころって。

「レイカ、どうした?」

「何か蹴っちゃったみたい」

「なんで蹴る? それ拾って」

 どれ? 見えないよ。ん? なんかにつまづいた。すり鉢だ。ほっとこ。カメラ、カメラはっと。これ? 黒い目玉おやじみたいなやつ。

「それ! それだよ。レイカ。だから、蹴らなくていいから。手で持ってきて」

 はいはい。

 なんか音した。後ろで。やばいやつかも。ウチ、チョッカン信じてるから、はやく車に。痛った。ころんだ。手に何か触れた。スリコギだ。きもっ、なんかベトつく。捨て! ますますやばい。

「プッシュ通知来た。マップが生き返ってる。なんかピンがいっぱいあるよ。このまわり」

「レイカ! はやく戻って、後ろ! カーミラ・亜種」

 はーい。だから言ったのに。こうなるシチュだしょ。ウチ、死亡ケッテー。でも、トリマ逃げなきゃ。悲惨な死に方はいやだもん。ウチは子供や孫に囲まれて畳の上で死ぬのが夢なんだから。


痛ったー。人の背中引っ掻いたの誰って! 


懐中電灯充てたらナニこいつ! マダラハゲのメタボバラにセーラー服って。すっごい顔して、銀色の牙、めっちゃ怖いんだけど。口のまわりの黒いのはチョコレートじゃないよね。くっさーい。息くさいよ。被り物の中でも臭うって、どーよ。あんた女の子なんだからデンタルケアしよ。お肌だってピーリングしなね。あれしてニベアぬったらツゥルッツゥルになるんだよ。街の男のおねーさんに聞いたから間違いないから。

痛いって、そんなに引っ掻かないでよ。もー。

「レイカ! こっちへ」

 向かってますが、ナニか。

車の中では、セイラがゴリゴリゴリゴリ。

なんで、いまゴマスリ? ん? 止めた。この子、手を止めた。

今のうち、ホーキで一発。

折れちゃった。頭かたいのね。

なんてことしてたら、横からも出て来た。間に合うかな、車まで。

くっそ、死んでたまるか。ウチを誰だと思ってやがる。カレー☆パンマンだぞ。違うか。

((わがちをふふめおにこらや))

 またさっきの声。それどころじゃないんだって。今は、あのムラサキキャベツにたどり着くの。

((わがちをふふめおにこらや))

 うっさいな、ほっといてよ。やった、たどり着いた。引っ張るなって。ウチの大事なニットシャツ。伸びるでショーに。

セイラがゴリゴリゴリゴリ。

また、手を放した。よし、乗れた、ドアをしめるよ。そーだよね。やっぱりそーするよね。ドアに手を挟んでくるよね。くっそー、なんだこのバカヂカラ。でもウチだって負けない。うおりゃー。アタマ突っ込んで来んなよ。だから口臭いんだって。あぶね、牙当たるでしょ。セイラ、そのスリコギ借りるね。

「カレー☆パンチ!」

 ゴギッ! 脳天に炸裂。ゴト! あ、落ちた。

意外に弱い。セイラ、棒ありがと。蛭人間さん、足で失礼します。えいや。ガーーバン! 閉まった。

「出して! 早く!」

 正常発進。エンジンかからないパターンはなしっと。まず、車内確認。ドアロック、よし。窓閉め、よし。天井、よし。座席の下、よし。後部荷物入れ、よし。カーミラさん同乗させてなし。外にへばりついてるかは、明るい安全なところ行ってから確認。

ドコ! って。なにこの数。取り囲まれてる。ドコ! ドコ! ドコ! ゴトン。ゴツ、ゴトン、ゴツ。痛った。アタマ打った。もう、わけわかんない。


「道に出た。家に帰るよ」

「ナルハヤでお願いします」

 とりあえず、セイラんちに退避完了。

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