第九章 レイカ、夜間窓口業務を勉強しなおす

第九章 【レイカ】(1/3)

 眠い。分かってたことだけど、やっぱりあんなことあると昼でも安心して寝てられないよ。これからどうしよう。みんなの所、泊まり歩くってのもな。あーあ。

 

バス来た。

「役場まで」

ゴリゴリーン。

バスの中、むさ苦しいのが充満してんですけど。宮木野神社前から大量に乗ってきた。例のセーヘキ持ちの同族なのはよっく分かるんだけど、どこ行くの? このバス役場行きだよ。

「血の団結式に呼ばれた我々は」

「課金レベルαのハイエリート」

「つまり上カモの集団」

「『V』まではな。『R』からは幹事だ」

「PT作れるのは幹事だけ」

「PTの人選も、武器の配置も」

「カメラの独占権はでかい」

「ミッションの成否は幹事にありってか」

「幹事でない奴らって」

「土地を持たない農民、網のない漁師」

「あわれだな」

 ぐわー。結局役場まで一緒だったよ。3か月じっくりとろ火で煮込んだ汗臭に、シトラス系の消臭スプレーぶっかけたみたいなニオイが体にこびりついちゃった。


 お風呂でゴッシゴシ洗ったけど、こびりついたセーヘキ臭は取れてない感じ。ズズー、ズズース。なになに、この書類を9階に届けよと。ごほーびはミワちゃん特製ヘビイチゴミルクセーキ。すでにいただいておりますが。ズズース。

 西棟のエレベーター動いてるから、まだ上に人がいるってことだよね。じゃ、今のうちに行って来よ。


 はじめて来たけど、フツーに役場してるんだね。ワンフロア全部が厚生課か。食餌係ってどっちかな。あっちの方か。でも、もう人がいない。お、奥の方だけ灯りついてる。人がいる。ひょっとして、ウチとおんなじ夜間窓口な人?

「あのー。特殊戸籍課の者ですが、この書類届けに来ました」

「あー、ありがとうございます。そこ置いといてください」

「遅くまで大変ですね。夜間窓口の方ですか?」

「まさか。頼まれてもそんな仕事しない……。あれ? ネズタロー? もとい、レイカ」

「そういうあなたは、ショーンくん?」

 中学の同窓会以来だ。何年ぶりだろ。なんかちょっとイケメンになってない? ようやく外見もショーンって名前に追い付いてきたね、そうでないのにハーフみたいなその名前に。まあ、中身のチャラさはもともとショーン級だったけど。


 帰り支度のショーンとちょっと立ち話。辻沢を見晴らすラウンジ。夕闇がせまって来てる。

「特殊戸籍課にねー。大変? 変わってるお客さんが多いって聞いたけど」

「えーと、よっくわかんない。まだ一人しか相手してないから」

「まー、そんなもんか。一人死ねば一人は必ず来るけど」

「死ねば?」

「レイカ、中学の時からボケが進行してないか? ってか、お前、なんか牛乳くせーな」

 クンクン。ヘビイチゴミルクセーキのせいかな。

「特殊要介護者の介護家族の欠損を埋める手伝いをするのが、お前んとこの仕事だろーが」

 そなの? LGBTじゃなかったの?

「埋める?」

「なんでお前ここに書類持ってきた」

「ミワちゃんに頼まれて」

「そっか、ミワも同じ課だっけ。そーじゃねーつの。どういう書類かってこと」

 特殊要介護者は、身寄りが限られた人で、その限られた人が介護者登録されているんだけど、その人にもしものことがあった時には、役場がその代わりを務めるための特例的な養子縁組で、だから申請者の名前しか書く欄がないってことでいい?

「ま、そんなところだな。で、縁組み成った方はウチの食餌係からお食事が提供されるって仕組みなわけよ」

「お弁当とか?」

「いいや、血だよ」

 え?

「って、ビックリさせてみるー」

 なんかチャラさ倍増してないか、こいつ。

「そんなわけなだろ。皆さんの血肉になるお食事だよ。おっと、もうこんな時間だ。さっさと帰んなきゃ。変なのと鉢合わせするとやばいからな。レイカもはやく帰れよ」

「ウチ、夜間窓口担当だから」

「マジ? 命いくつあっても足りねーぞ。って、脅かしてみるー。じぁな。ほれ、今上ってきたエレベーターが最後のじゃね。とっとこ走らねーと乗り遅れるぞネズタローって、焦らせてみるー」

ショーンが走りだしたからウチも慌てて走って追いつこうとしたら、エレベーターの前で、

「俺は東棟の階段使うから。じゃーなー」

って、そのまんま走って東棟のほうに行っちゃった。西棟の階段の方が近いのに。こっちは変なのわさわさ出てきてやばいってもしかして知ってる?

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