第八章 【ヒビキ】(2/3)

 空気重い。コの字に並べた会議机に、3吉田、北村シニアマネ、伊礼バイプレまで。社長待ちの役員会議室。真ん中のパイプ椅子にあたし。この状態は入社の時の役員面接以来だけど、緊張はあの時ほどでない。


 入口の扉が勢いよく開いて、

「ヒビキ、やってくれたな。カイシャ潰れるぞ」

 社長、ご来臨。怒り度、60パーセントに抑えてる。

「すみません」

「幸い、死人は出なかったが、けが人が両手出た。金と信用含めて、かなりの損失だ」

 言いようがないです。どうして志野婦の神輿が宮城野の神輿にぶつかっていったのか? あれはあきらかな故意。誰かに命令されたような。なんてことはここでは口にしませんから、社長。


「一番に現場に行って仕切ったことは褒めてやる。まあ、ヒビキ一人を攻めてもどうなるものじゃなし。言ってみれば、ここに雁首並べた連中みんなが責任を負うべきだ。なあ、北村」

「へ、へい」

「何が、へいだ。お前んちの屋号は『小房の粂八』か?」

 北村シニアマネ、緊張しすぎ。

「プレス集めて謝罪会見は吉田クンお願い。カス同席で土下座でもなんでもさせて。その後は懇意の記者連れて病院回って」

 『クン』付けは吉田シニアマネ。社長とは高校の同期だから。当然会長とも同期で、かつ設立メンバー。

「宮木野信用金庫からいろいろ言って来てます」

「吉田さん、あんたのコネクションはこういう時のためだろ。フォローお願い」

 『さん』付けは、吉田エグゼクティブ。社外から引っ張ってきたから。

「役場はどうしましょう」

「今、町長に一番近いのは伊礼だ。お前に任せる」

 伊礼バイプレは社内一の切れ者だから、いつも一番やっかいな仕事を任される。

「あとは、辻のうるさがただけど」

 北村シニアマネと吉田ディレクタ下向いちゃってる。

「これは、あたしがやる。北村、お前も同行しろ」

「へい」

 吉田ディレクタ安堵。ちなみに呼び方は、

「吉田! 警察と消防な。上とはもう話しついてるから、お前は署員の皆様と茶飲み話でもして来い。手ぶらで行くなよ」

「いくらぐらいの菓子折りがいいですかね」

「お前の屋号は『山吹色の菓子折りでございます、お代官様』か? そんなもの受け取ってもらえるか。情報だよ、情報」

「へい」

「で、ヒビキ。お前はクビ。の、ところだけど、面接のときの志望動機、まだ手を着けてないよな」

「はい」

「ネコカフェのチェーン店展開をうちでやりたい。今も同じか?」

「はい」

「分かった。ヒビキはしばらく謹慎。あたし預かりってことで。いいね」

「はい」

「みんなも、いいね」

「「「「へい」」」」

「どうして、みんなして『へい』なんだ? お前らの屋号は『鬼平の密偵』か?」

 社長うれしそう。

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