第四章 【レイカ】(3/8)

 朝8時、家帰ってからすぐにベッドにもぐりこんで寝た。昨日の散歩のおかげで、すぐ寝ついたみたいなのに、まーた真昼間に目が覚めちゃったよ。もっと寝ないと仕事続けらんない。でも今日は涼すぃーね。過ごしやすそー。お風呂は役場で入るとして、トーチョーまで何してよっか。そっだ、居間の大画面でお父さんのビデオでも観よっと。あそこのは皿うどん(つい言いたくなるおやじギャグ)、もといサラウンドだから、迫力あるんだよね。

 パパのコレクション、ちょっと古いんだ。なんせ16年前からそのまんまだから。ウチが観て面白いってのはアンマない。なにこれ。


『狼男アメリカン』


アメリカ人の青年が狼男になる話? 狼男に噛まれたらゾンビになるのか。ふーん、これにしょ。


 着替えるのめんどくさいからパジャマのまんまでビデオ鑑賞。ママ生きてたら怒られたろうけど。ん? なんで、お味噌汁の匂い? ママが化けて出た? のわけないか。

 なんか思い出しちゃった。お休みの日に遅く起きたら、ママがお昼の用意してて、こんな感じに、お味噌汁の匂いが漂っててさ。台所行ったら、ママが厭味ったらしく、「おそよー」なんて言って来て。くっそも面白くなくってカチンと来て。お腹すいてたのにわざとお昼食べなくて、ずっとTV観てママのこと無視してた。今思えばフツーの挨拶じゃん。オトナゲなかった、あの頃のウチ。なんでもママに逆らえばいいて思ってたふしがあるよ。


 そっか、ニーニーの可能性も、ってないね。ゼッテーない。ウチがここを出る何年も前から一度も部屋から出てきたことなかったヤツが、ママが死んだくらいでカイシンしないっつーの。じゃー、だれって。ビンゴ! 高倉さんでしたー。

「こんちわー」

「お目覚めですか? 勝手に上がらせていただいております。聞けば徹夜のお仕事とか。大変でございますね」

「とか」だって。いきなりギャル語? なんか使い方違うし。

「は、はい」

 会話続かない。

「よかったら、お食事をご一緒にいかがですか?」

 ニーニーと? いやいやいや。ありえん案件だから。

「私とでございますが、お嫌ですか?」

 高倉さんと? ひとんちで食事してんの、この人。いつもこーゆー感じだったの?

「私はコンビニエンスストアーで買ってきたお弁当でございますが」

 そぃうこと。お腹すいたから、いいかな。

「じゃ、ちょこっと着替えてきます。待っててもらえますか?」

 パジャマのまんまじゃ、サスガニ。

「よござんすよ」

 なんなの? あのしゃべりかた。

「へい! よござんす」

 オカッピキかって。


 ズーズズー。あーまずかった。ミワちゃんからマタマタもらった、ペンペングサ&タンポポ・ミルクココア。どれか一つにすりゃーいいじゃん。ペンペングサか、タンポポか、ミルクココアか。なんでいっしょにすんのよ。エグすぎるっての。まったく確信犯だよ、ドSのミワちゃんは。


 しかし、あせるね。話すことない。高倉さんも一言もしゃべらないし。一緒って意味なくね? 

「レイカ様は」

 ビックしたー。しゃべったよ。あれ、高倉さんって、よく見っとキレーな人だ。色白で、ホソオモテっての? オバサンくさいお化粧直せばイケイケじゃね。特にそのチークは、ナンダカ。

「お役所にお勤めですとか」

 またギャル語。どんだけウチとナレシタシミたいの? でも最近使わないから、その「とか」とかー。

「どちらの部署になりますでしょう」

「特殊戸籍課ってところです」

「まあ、ミワ様と同じところですね」

「知ってるんですか? ミワちゃんのこと」

「はい。よっく存じ上げておりますよ。お生まれになったころから」

「そんなに前からですか?」

「こちらでも、つい最近までご一緒させていただいておりました」

 え? うちで? ミワちゃんが?

「はい。奥様がミワ様をいたくお気に入りで、しばらくお宅に住まわさせていらっしゃいました。ご一緒にお料理などされて、それはそれは可愛がられて。私にも『娘が帰ってきたようよ』と喜ば……、大変失礼いたしました」

「いいえ。いんんです。ウチは」

 いいのに、高倉さん。すっごく申し訳なさそう。

「それって、いつごろの話ですか?」

「はい。レイカ様がお宅を出られてすぐに来られてたそうで、奥様が亡くなられるちょっと前まで」

 ずいぶん長い間うちにいたってこと? ミワちゃんそんなこと何も言ってくれなかった。言いにくかったのかな?

「ゴチソー様でした。玉ネギ抜き牛丼おいしかったです」

「お粗末さまでございました。あ、そのままでどうぞ」

「いえ、洗います」

 洗剤どれ使うのかな。この粉の使っちゃえ。蛇口はどっち?。アッツ。ネットーじゃん。

 ま、いっか。ミワちゃんと楽しく仕事できれば。ミワちゃんと一緒にいられると、ウチうれしいもん。でも気になるから、今度それとなく聞いてみようかな。それともミワちゃんが言ってくれるの待った方がいいかな。


 今、天井ミシッて言ったね。ここ、そう言えばニーニーの部屋の真下だ。ニーニー下りてこないよね。やだな。会いたくないよ。またミシッて。今度は廊下のほうから。やだよ。ニーニー来ないでよ。

 なんか、急にのど乾いた。このペットボトルいいかな。なんなのこの変な色の飲み物。まいっか。キュッとな。


((それにさわるな))


声した、アタマん中で。何? さっぶ。気温マイナスになった。コゴエル。ニーニーだ。セーヘキだ。ニーニー、セーヘキ持ちだから。どんだけセーヘキな人なの? 人の頭ん中に話しかけるって。マジ、怖いんだけど。


((それにさわるな))


わかった。わかったって。放したよ。ほら、ペットボトル。お願いだから、アタマん中に話しかけないで。わかった、もうわかったから。ニーニーやめて。

「どうなされました? お顔の色が」

 あの時もたしか、こんな感じだった。忘れてたけど。

「なんでもないです。ちょっとソファーに横にならせてください」

「では、何か掛けるものをお持ちしましょう。他に何かあれば」

 どうせ掛けるなのなら、テーブルのビデオテープ、デッキに掛けてください。 

 

 久しぶりにパパのコレクション観ちゃった。一緒に観たことないけど、これ観るとなんでかパパと一緒に観た気がするから不思議。

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