第二章 【レイカ】(5/8)

 あっつー。日傘、先に荷物で送ったのは失敗だった。やっとヤオマンか。うえっ、あのゲリ男改めセーヘキ持ちが店から出て来た。荷物いっぱいになってる。何買うものがあるのかな。ちょっと、ゆっくり行こう。まだまだ先だし。じりじり熱いけど。


 ここらへんも、山椒畑なくして量販店にしちゃったんだ。ウチが子供のころは、あっちもこっちも山椒畑だったけど。やっぱ全部スリコギにしちゃうからかね。農家の人たちも、山椒って感じじゃないのかもね、スデニ。


 やっと着いた。お葬式ぶりのジッカ。なんか陰気臭いんだよね。かび臭いっての? だだっ広くて落ち着かないし。だれもいませんかー(小声)。ニーニーに聞こえないように静かにしないとね。ま、ニーニーはゼッテー出てこないと思うけど。

 階段のとこに本とビデオでいっぱいっの部屋ある。ほとんどパパが遺したコレクション。パパはウチが小学校入る前に死んじゃったんだ。どんな人だったか覚えてない。だからこのコレクションだけがウチとパパの接点。また暇なとき観よ。


 ユメカが(会社で仲よかった子ね)ジッカ帰ったら自分の部屋、物置だったって言ってたけど、ウチの部屋もカンペキそう。絨毯も変えられちゃてて、グレーってどーよ。あれ、荷物届いてる。2階まで誰運んでくれたのかな。

 ママはここで死んでたらしいけど、ママだからね、幽霊になって出てきてもいいかな。ここで寝ることにしよ。ドアに鍵がすごいいっぱいついてるの、それも安心だし(いくつか壊れてるけど)。ここはニーニーの部屋から一番遠いから逃げようったら、屋根伝ってお隣の前園さん(横なのに前園って笑)の2階のテラスに飛び移れる。ヘーチャンいるけど、そん時は許してくれるよね。多分。


 ヘーチャンっていうのは、前園さんとこの2階のテラスで飼ってる秋田犬のこと。オバサンが鬼ヘー大好きで、ホントーはヘイゾーって名前なんだって。人間が大嫌いなの。いつもは下の道を誰かが通るタンビに全力でテラスから吠えてた。顔見知りだからって容赦しないから、ウチもよく吠えられてた。ガタイでっかいから声は太いし、めっちゃおっかなくって。あんなのに腕でもかみつかれたら骨むき出しのズタボロにされちゃうよ。ママのお葬式で帰った時もさんざん吠えられたけど、でもね、通夜の後ウチが窓から夜空見てたら、「きゅわん」(重低音)っていって慰めてくれたんだよね、隣のテラスんところから。ホントは優しいワンコなんだよ、ヘーチャンは。

 そういえば今日、ヘーチャンに吠えらんなかったな。


 なんか疲れちゃった。久しぶりに懐かしいもの目にしたら、記憶がわーとよみがえってきた感じで。今は頭がボーとしてる。今日は早めに寝よ。部屋にがっちり鍵かけて。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る