第二章 【レイカ】(3/8)

 お、ホームにJKがわんさか。辻沢女子高等学校。通称辻女。母校の後輩たちだ。あいかわらず、制服かわいい。あのリボンの結び方、辻女結びっていうんだ。守ってるねー、デントー。肩触れただけなのに「あ、すみません」だって、さすが我がボコーの後輩はおしとやかだね。そのうち「ごきげんよう」なんて言い出すんじゃないの。うちは口が裂けても言わなかったけど。

「あのー」

 おっと、後輩、ウチのこと知ってるのかい? そーだよ、女バスの元マネージャ……。

「これ、忘れ物」

「あ、すみません。ありがとうございます」

 またスマフォ、オキッパしちゃった。ほんと何度やれば気が済むんだか。ちゃんとしまっとこ。


 げ! ドトーのごとく改札抜けてこちらに向かってくるのは、おそらく女バス。懐かしのバスケバッグと各自ボールケース持ってるし。週末はどこまで遠征かな。って、わわわわ! 逆巻く女バスの波に押し返される、か弱いウチ。

「「「「このゴリゴリコロッケだれのー、30円おツリー。これソースかかってねーし。こっちパスして。なにをよ? コロッケコロッケ。バッカ食い物投げれるかって」」」」

汗のニオイする。シーブリぶっかけただけじゃ消えない青春の芳香。


JK過ぎ去りしホーム。なんでウチ、コロッケ持ってるの?

「よっしゃ。乗れたー」

 ピンポロピインピンポロピインピンポロピイン。

「ギリせーふ」

「よーし、次はエサだ、エサ」

 ガシュー、ガコン、ガコン、ガガガ。

「ちょっとミサキ。ウチのゴリゴリコロッケは?」

〈は、っさすあぬ〉プファン。

「渡したっしょ。プファン」

「は? 渡されてねーから。プファン」

「誰かコロッケ、ヨケーに持ってねーえ? プファン」

「「「「「ねーよー。プファン」」」」」

「見て見て、あの人コロッケ持ってる」

 これのことカナ?

「なして?」

「あー、なんか手が出てたから渡したかも」

「じゃ、あれウチんだ。そこの人、それアタシのでーす」

 ほれほれ、盗るつもりなんてモートーないからさ。ほれ。もっと手を伸ばさないかい。オバサンを走らすんじゃないよ。

「ダメー。手、届かないから投げてー。早くー」

 投げるって、食べ物投げちゃまずいっしょ。

「お願ーい。パドゥー、ウチに投げてー」

 誰がパドゥーだ。コントロールないからね。知らんよ。ソーレ、投げましたっと。キレーな放物線えがいて、窓の枠に当たって、JKの指かすって、線路に落ちちゃった。

「あー、ウチのコロッケがー」

「イエー! 今日のカノン、何やってもバルス!」

「「「「バルス! バルス! バルス! バルス!」」」」

 遠のいていく笑い声にココロが痛い。

 あの子もウチに渡したのが運の尽きだった。もしこれがウチらの代のシオネだったら、猛烈なダッシュで汽車に追いつき、ジャンプ一閃、あんたの手にコロッケをたたきつけてた。なんたって、身長160でダンクをキメた伝説の女だかんね、ふん!(ハナ息つよめ)。


……ココロとシオネ。


この二人も、ヒマワリと時期を同じくしてあたしたちの前からいなくなった。あれから4年、ウチはあの事件のあった辻沢に戻ってきたんだね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る