第一章 社畜OL 響(ヒビキ)カリンは地元企業で仕事する

第一章 【ヒビキ】(1/8)

 やっと打ち合わせ終わった。しかし、すげーなこの広報のヒト。一人で3時間しゃべり通しだった。最初の印象は、うつむき加減で肌が病的に白くって声もかぼそくて、か弱い女子だと思ったのに、いざ打ち合わせになったらしゃべるわしゃべるわ。女傑って言われるうちの社長がたじたじって、どんだけのバイタリティーだよ。それに比べて横の町長はといえば。ずーと鼻毛抜いてテーブルに並べてやがった。ったく、ここだれが後片付けすんだっての。

「ヒビキ、車まわしといてくれる?」

「はい、社長」

「あ、ヒビキちゃん。キー、これね」

 ちゃん呼ばわりすんな。ハナ毛。


 廊下、灯り消えてるや。オツカレサマでーす(小声)。守衛さんうたた寝してる。無理もないよ、すでに夜の12時半だもの。で、さすがにこの時間となるとまだ涼しー。夜風が心地いい、稲くさいけど。今、田んぼの中でガサガサって音したね。なんてね、何もいるわけないし。いたとしてもでっかいネズミのヌートリアさんだしょ。

 辻沢駅裏からこんな田んぼのまん中の本社移転で唯一うれしかったのが駐車場の広さ。青物市場の旧本社の駐車場は狭くて、社員は離れたところ使わされてた。ここなら全社員の車止めてもまだ余裕がある。

 えっと、ノーブルシャイニングホワイトのエクサスはっと。あったあった。てか、もう社長の真っ赤なポルポルとエクサスだけじゃん(あたしのK車は除外)。相変わらずかっこいーねー、エクサスLFAは。V型10気筒DOHCエンジン、日本の公道でこんだけいるかっていうほどのパワーとスピード。インテリアの豪華さやばい。マホガニー調のダッシュボードに黒の総皮張りシートって、これだけであたしの車10台ぐらい買えちゃうんじゃないの? いつかあたしもこんな車に乗れるようになるんだろか。

 まずは、キーを真ん中のスペースに置いてステアリング横のボタンを押すとエンジンがかかる。マジ? 激マジ? 鼓動を揺さぶるエギゾーストノイズ。エンジン音ずっと聞いていたい。発車オーライ。おっと、アクセル踏み過ぎた。って、わざとー。怖いよ、この底知れぬ馬力。ハンドリング軽い。タイヤ吸いつく。これだったら峠道、楽勝でぶっ飛ばせるね。って、やっば、社長たちもう玄関で待ってる。

「じゃあ、社長、三社祭スポンサードの件はよろしくということで」

「はいはい。アイデアは町長、お金はうち。ですもんね」

「しゃちょー、それはないんじゃないの? 辻沢に人が集まる。ヤオマン儲かる、でしょ」

 ホントやな奴。こいつが辻沢の町長だってんだから。

「ヒビキちゃんだっけ? 苗字ひょっとして能面ライダーだったり? 能面ライダー・ヒビキ」

 の、わけないだろ、名刺見ろ。苗字だ、ヒビキは。ってか、何回目だ? それ言ったの。

「こわいねー、睨まれちゃったよ。社長、若いのは早いうち教育しなきゃだめだよ。すーぐ言うこと聞かなくなるから。じゃ」

 なーにが。てめーがまず教育されろっての。

広報さん、また次の打ち合わせで(お辞儀のみ)。足、気持ち引き摺ってたんだ。あ、そこ段差あります。気をつけて(お辞儀)。

 町長が運転すんだ。あーあ、あいつにはもったいない車だよ。エクサスLFAのポテンシャル舐めてんじゃねーぞ。とろとろやってねーできちっと走らせろや。それにしても、エクステ、めっちゃかっこいい。

「ヒビキ。あいつ一度、コロしてくれない」

「いいんですか? 社長」

「じゃんじゃんコロして」

「じゃ、遠慮なく。これで、今月二人目になります」

「あれ? そうだった? もう一人は誰?」

「会長です。うちの引き籠り、ヤッチャってって、先週」

「そうだった? でも、あのカスは常時依頼案件だから」

「そういえば先々月も頼まれました」

「だめじゃなーい。納期守らなきゃ。プロジェクト・リーダー失格だよ。なんてね」

「して、ヤツメをコロした報酬は? 殿」

「うむ。白いエクサスでどうじゃ」

「あの、白いエクサスでございますか?」

「悪い話ではなかろうて、近江屋。もともとうちがお金出して買わせたんだったよね、あの車って」

「御意」

「では、頼んだ。7月末までに納品してね」

「御意」

「冗談はさておき、もうこんな時間。帰ろ。乗っけて行くよ。乗りたいって言ってたよね、ポルポル」

「ホントですか? あー、でも、車置いて帰ると明日メンドーなんで今度にします」

「朝、迎えに行ってあげるよ。トール道だし」

(それは、アナタのトール道よ)か。女バスの川田先生お元気かな。

「どうした? ぼっとして」

 あ、思い出に浸ってしまった。

「いえいえめっそーもない。社長にお迎えされるなんてしたら、スカート履き忘れちゃいそうです」

「あー、それ知ってる。朝、スカート履くの忘れて電車乗るOLの話でしょ?」

「かわいそうですよね。気付いた時のこと考えると」

「ふーん。そういう反応なんだ、最近の若い子は。まあ、そもそも論でヒビキはスカート履かないけどね」

 社長、少し疲れてるのかな。なんだか背中が曲がって見える。

「じゃあ、気を付けて帰んなよ。スピード出すな。あんたはうちのホープなんだから」

「お疲れ様でした」

「あとよろしくね」

 ポルポルか、いいな。飛ばすと気持ちいいんだろうな。


 カイシャ誰もいない。いつものことだけど。

「さ、ちゃっちゃと議事録作って帰ろ」


 なんだかんだで、結局2時か、帰るのメンドーになっちゃった。顔洗って寝よ。ありゃりゃ、電動歯ブラシの毛先、広がっちゃってる。替えもなくなったし、お泊りセットそろそろ新しいのと変えなきゃね。あと替えPとかも用意しとかないと。P一枚で二日間はサスガニ。これでも乙女だから、あたし。

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