プロローグ

 ママ、死んじゃった。

「レイカへ。 ニーニーのことはよろしくお願いします」

 ってメッセージだけ遺して。

 そんなの知らない。家を出て三年も経つのに、いまさらって気持ち。ニーニー引き籠りなんだよね。部屋から出てくる事なんて無くて、ウチが実家にいた時だって何年間も顔も見たことなかった。声すらわからない。そもそも、都会生活に慣れ親しんだウチからすれば田舎のことなんて記憶のカナタだから。


 ママのお葬式はセレモニア辻沢でやった。慌ただしかったな。ウチの実家は辻沢ってところの旧家で屋号とかあったりするんだけど、ママが1人で切り盛りしてた。結局喪主誰だったんだろ。おばーちゃんとパパはずいぶん前に死んじゃったし、ニーニーがするわけないしって思って、ワンチャンあるかもって、

『女バスな人にもわかる お葬式の段取り』

 ポチってわざわざ持って行ったのに、ウチは祭壇のそばにずっと座らせられてただけ。式次第の喪主挨拶のところには、

「宮木野」

 って、なんか仕出し屋さんみたいな名前が載ってて、結局そこはスルーだった。きっとあれだよカゲモシュとかいう。……カゲムシャか、それは。うちの田舎は、例えばお葬式のことカゲカクシって言って夜にしかしないとか、よく分かんないシキタリがたくさんあるんだけど、娘のウチにママの顔を拝ませないってのはどうかと思うよね。で、だれもいなくなった時、棺桶の中覗いたんだけど、中に入ってたのは、

「ひえ! 首なし!!」

 ママの首どこ行っちゃったの? てか、これって本当にママなの?

ウチはびっくりしちゃったけど、そういうことがあっても誰も大騒ぎしないんだ。辻沢だから。

 それから参列者のオジサン、オバサン? 知らない人ばっかだった。あの人たちどっから湧いて出てきた? なんか、埃くさいってのか、土くさいってのか。

 嬉しかったのはミワちゃんが来てくれてたこと。高校の卒業式以来だから3年ぶり? 式場暗くて分かりにくかったけど、お腹おっきかったみたい。女バスの時からおかーさんだったけど本当のおかーさんになるんだね。おめでと。

懐かしいな。ナナミやカリンやセイラ、女バスの皆どうしてるかな。

 お葬式が終わった時、司法書士って人に遺産を相続する気があるならば兄上と一年間同居しろって。ママってばほんとうざい。遺産ってどれくらい? って聞いたら、

「あなた様には現金分だけで二千万円ご用意があります」

 ってから、そっこー実家に帰ることにした笑。

 

 忌引き明け、セク原課長に辞表たたきつけて勤めてたブラック会社辞めたんだけど、セク原のやつ、あとでコソコソ、訴えないよねだって、ノミの心配性かっての笑。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る