BBAが斬る!
はまだない
序幕
とある山道にポツリと店を構える茶屋。峠を行く旅人たちの
余り人通りの多くないこの山道の茶屋で、見目
「ところで店主、近年ここらに女ばかりを狙う盗賊団が出ると聞いたが、
「ええ……。お陰で御覧のあり様でさぁ。以前に比べるとめっきりこの山道を通る人間も少なくなっちまってよう」
「確かにな……」
事実街からこの茶屋まで半日ほど歩いて来たが、隊商とすれ違うくらいで、少人数の旅人、ましてや一人で旅している者には出くわさなかった。
「ふむ……。まあ安心しろ。それも今日までだ」
「へ……? それはどう言う事で?」
「うむ。旅の途中で寄った街でな、その
「悪い事は言わねぇ。お止めなせぇ」
店主はそう言って暗い表情を浮かべる。
「お客さんの様に今まで何人もそう言って盗賊退治に向かって行きやしたが、結局戻って来た奴ぁ一人も居ませんで」
「フ……。心配するな。私はそこらの腕自慢とは一味違うぞ? 仮にも勇者と呼ばれる事もあるんだ。魔族の将軍も倒した事がある。盗賊の十人や二十人、どうと言う事はないさ」
「そうですか……。無理にお止めは致しやせんが、くれぐれも注意しなせぇよ」
「ああ。分かっているさ。心配してくれてありがとう」
お茶請けの団子を食べ終わり、茶を飲み干すと、代金を店主へと渡す。
「馳走になった。では行ってくるよ。吉報を待っていてくれ」
自称勇者の女剣士は、颯爽と山道を歩いて行く。
その背中を見送る店主の顔には──
「ふん。チョロいもんだ」
茶屋から一刻ほど歩いただろうか、山道の両脇には手入れのされていない草木が
人通りもなく見通しも悪い。正に絶好の襲撃ポイントであろう。
自然を装いながら周囲を警戒しつつ
素知らぬ振りをしてそのまま歩いていると、左右の茂みから合わせて五人の男達が、女剣士の前に立ちはだかり道を塞ぐ。
「よう
真ん中のリーダー格と思しき男が、
「ちげぇねぇ!」と周囲の男達が同調し、ゲラゲラと馬鹿笑いを上げている。
女剣士は男達に取り合う事無く、油断なく周囲の気配に神経を集中する。
(左右に五。背後にも五……と言った所か)
「黙り込んでどうしたんでちゅかー? 怖くて声も出ないのかなぁ~?」
そういう作戦なのだろう、神経を
怒りで冷静さを失わせて、伏兵が奇襲をかける積りなのであろう。
(雑魚でも雑魚なりには考えてるわね……気配が駄々洩れで無駄だけど)
女剣士は挑発に乗った様に見せかけて、剣に手を掛け一歩踏み込む。
と同時に、大きく地を蹴り後方へと高く飛び上がる。
左右と背後から放たれた毒針が、女剣士が元居た場所を
「なっ……避けただとっ!?」
女剣士はそのまま後方に居る五人の背後にヒラリと降り立ち、瞬く間に叩き伏せる。
「仮にも不意打ちしようって言うならもう少し上手に気配を消す事ね。バレバレ過ぎて逆に陽動なのかと疑っちゃうほどだったわ」
「こんのアマぁ……なめてんじゃねーぞぉ!」
顔を真っ赤にして怒るリーダー格の男に、余裕の笑みを向ける。
「あら、もう策はないのかしら? ならパパっと終わらせるとしましょうか」
今し方倒したばかりの男達が持っていた毒針を素早く回収。左右の茂みから飛ばされて来る毒針を軽やかに躱しつつ、右に左に毒針を投げ放つ。
「うっ」「ぐっ」「げぇっ」
女剣士が投げた毒針は、吸い込まれる様に茂みに潜む盗賊たちに命中して行く。ものの一分と経たずに、二十人は居た盗賊たちは僅かに前方の五人を残すだけとなった。
「さて、残るはあなた達だけね。安心して。抵抗しなければ命までは取らないわ」
「へっ! それは有難いこって! 何ならここは一つ見逃しちゃーくれませんかね?」
(クソがっ! 十分時間は経ってるはずなのに、何でピンピンしてやがるっ! あの馬鹿、失敗しやがったんじゃねぇだろうなあ!)
リーダー格の男は心中で手下である茶屋の店主に毒づく。
「それは出来ない相談ね。痛い思いをしたくなかったら大人しくしている事ね。実力の差はもう分かっているでしょ?」
女剣士は余裕の笑みを浮かべながらも、剣をしっかと握り締め油断なくリーダー格の男に近付いて行く。
背を見せて逃げを打てば、瞬時にやられる。
かと言って向かって行った所で、先程までの動きを見る限り手も足も出ない事くらい、武芸の
だからただ、じっとその時を待った。これは賭けだ。
そしてリーダー格の男はその賭けに勝った。
もうあと数歩で女剣士の手が届く。その時だった。
カクン──
突如女剣士が膝から崩れ落ちる。
「な……にが……」
膝立ちの状態から起き上がろうとするも、思う様に全身に力が入らない。
やがてその状態を維持するのも困難になり、力なく地べたに這い
「ク……ククククク……ヒャーハッハッハッハッ! 焦った! 流石に焦ったぜぇ! こんなにビビらされたのはお前が初めてだ! 褒めてやるぜ!」
地面に倒れ伏し、最早顔を上げる事もままならず、視線をリーダー格に向けるのが精一杯の女剣士を見下ろし、リーダー格の男は高笑う。
「何が起きたか分からねぇだろうから教えてやるよ。ばぁかなおめぇは、茶屋で一服盛られてたのさ。遅効性だがとびきり強力な痺れ薬をなぁ!」
勝利を確信したリーダー格の男は調子良く続ける。
「余り早く効いてもよぉ、茶屋で一服盛ってるのがバレちまう。だからよう大方半刻ほどで効いてくる薬を使ってんだが……おめぇは一刻を過ぎてもピンピンしてやがった。盛るのに失敗しやがったのかと思ったぜ。大方、さっきの派手な立ち回りで薬が一気に回ったんだろうぜ。お陰で助かっちまったなぁ?」
リーダー格の男は屈んで女剣士の顔を覗き込む。
「クク。器量良しの自称勇者様だ。こりゃあ相当好い値が付くだろうなあ」
「な……に…………を…………」
麻痺して口も
「ククク。そうだ、よおく見ておけ?」
リーダー格の男は懐からケースに収められた一本の小瓶を取り出す。
「心配する事ぁねぇ。こいつぁ只の眠り薬さ。今からコレをおめぇに飲ませる。飲んで眠るまでがおめぇの剣士としての人生の最期だ。眠ってる間に何処とも知れねぇ俺らのアジトに監禁され、目が覚めたら奴隷として新しい人生の幕開けだ! さぞ良いクソ変態のご主人様に飼ってもらえるだろうよ! ヒャーハッハッハッハッハァ!」
「い…………や…………や…………め…………」
己の人生が終わる。死よりも辛い『モノ』としての生が始まる。
悔しさと恐怖に思わず
だが逃げる事も、抗う事も、出来はしない。
髪を掴まれ無理やり顔を持ち上げられ、小瓶の中身を流し込まれる。鼻をつままれ口を塞がれ、顎を持ち上げられ強引に飲み込まされる。
「じゃあな。ゆ・う・しゃ・さ・ま」
女剣士が最後に聞いたのは、己を
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