Re:Aphrodite
「あなたからは、殺意だけじゃなくて後悔も感じるかも」
「確かにボクは……そうかもしれないけど」
ロディの掌から放たれる電撃をミコトは後退しつつ回避する。ここに辿り着くまで、ロディは抵抗する人間を気絶させるまでに抑え殺害まではしていなかった。しかし他の人造人間やウラヌスの殺戮は止めず見ていただけ。ミコトはここまでの道中で見かけた、倒れている人間達を見てそれを察しており。
「自分だけ人を殺さない……何それ? 自己満足?」
「そうだよ……! ボクは、ユニとコスモの願いを、力ずくにでも叶えてみせる」
ユニバースとコスモの事を詳しく知らないミコトにとって、ロディが決意する理由や過去は推測するしかなかった。
「あなたと同じ『黄色』の力……【レオン】!」
だが相手の事情を知らないのはロディも同じ。ミコトはライオンの牙を思わせるペンチを右腕に出現させた。対しロディは薙刀状の武器を右手に持つ。かつてウラヌスが使っていた双剣で、2つを組み合わせ弓にするところを、間違った左右逆の方向で合体させる事で完成した小さいサイズの薙刀。
「あなた次第で、私は人造人間の味方をする事だってできるんだけど?」
「……信用はできない」
「なら、残念」
互いの持つ武器からは電撃が放出され互いを狙う。黒いコンクリートの地はそれらを受け付けないが、2人の身体は痺れた。構造上ある程度耐性を持っているロディはまだしも、ミコトは全身が生身。痛みももちろんあったが動きを止めずロディへと走る。
「やっぱり『白』は異常だ……!」
「ギャラクと比較されたかな? でもこれは【アリエス】のおかげだよ」
そう言うとミコトは身体を傾け、背中にまとわりつくモフモフとした羊毛を見せた。黄色い電撃が毛に吸収されていく。
「この【アリエス】は私の全身を襲うあらゆる衝撃をある程度吸収してくれる……でも、ある程度だけ。少しは痛いんだよ」
ミコトが操る他の能力の多くは右手に発現させるため同時に行使する事はできていなかったが、この【アリエス】は背中。故に【レオン】との同時発動を可能にしていた。
「『白』とは前にも戦った! 例えボク1人でも今回は勝つ!」
ミコトの【レオン】に対し、ロディは薙刀を両手で持ち衝突させた。黄色の雷が辺り一面に広がると、ロディは一瞬で薙刀を分割した。双剣の姿となった刃物はロディから見て左の方が【レオン】の迎撃に徹し、右の方はミコトの首を直接狙う。だがまたしても『星座の白』の力が。
「【スコルピオ】!」
突然に叫ばれたその力によって、ミコトの臀部の少し上からはまるでサソリの尻尾のような物体が這い出でる。首を狙った斬撃を尻尾は無理やり受け止め、互いの力が拮抗すると震えた。
「また新しい力……!?」
「できればあんまり手札は見せたくないんだけどね。私の『星座の白』はギャラクの『宇宙の白』とは違って、シンプル過ぎるみたいだし」
このままでは力負けすると判断したロディは、ミコトの腹部を蹴りその勢いで後退した。不意打ち気味のハイキックに驚いたミコトは腹部を擦る。
「あー……やっぱり三色同時は疲れる」
(攻撃系の能力でロディに見せていないのは切り裂く泡を吐き出す【キャンサー】と、ちょっと特殊型の【タウラス】だけか……【ピスケス】はきっとネプくんと協力すれば活かせるんだろうけど、今は)
ミコトの持つ『星座の白』は『宇宙の白』と比べても素直な能力が揃っており、搦手や特殊な条件を持つものは少ない。故に力の全貌が明らかになってしまえば、対策もされやすい。それをミコトは警戒し出し惜しみをしていた。
「【サジタリウス】を使う」
先程も見せた、オレンジ色の弓矢を出現させた。左手で弓を引き、発射するとやはり無数に分裂しロディに襲いかかる。速度はなかなかのものであったがロディの操る電撃はその上をいく。放たれた電撃も分裂し矢と相殺すると、衝撃で小さな爆発を生んだ。
「……っ!」
その爆発でロディの視界が少しだけ悪くなった瞬間、ミコトは走り出し一気に距離を詰めた。しかしロディも足音で察し、呼吸を一瞬だけ止めて双剣を構える。次の瞬間、爆発を切って現れたミコトとロディは衝突。
再度【レオン】と【スコルピオ】を装備していたミコトは両者を差し向けるも、ロディは全力の電撃を纏った双剣の斬撃で対抗した。すると【スコルピオ】は呆気なく切断されミコトの脇腹が切り裂かれる。【レオン】にもヒビが入りミコトにとっては絶体絶命の状況に思えたが、彼女は何の力も宿していない左手を使った。
「はぁっ!」
「なっ……!?」
左手の掌底がロディの胸に直撃した。これまで武器に頼りきりだったミコトからは想定していない動きだという事もあり、真正面から受け止めてしまったロディは身体が少し宙に浮いた。
「【サジタリウス】ッ!」
隙を見逃さず【レオン】と【スコルピオ】を解除し三度弓矢を出現させると早撃ち。矢はロディの両肩を貫通し、そのまま倒れさせ地面に突き刺さると身動きを封じた。
「はぁっ、はぁ」
呼吸の荒くなっていたミコトはようやく一安心。斬られた脇腹からの出血は収まっていなかったが、左手で押さえロディに近づいていく。
「……殺さないの?」
「私の胸を貫く事くらいできたでしょ。だから私も、殺しはしない」
見下ろしたミコトは手加減を指摘した。何も返さなかったロディは目を閉じて溜め息を吐く。そして自らの問いを口にする。
「……ねぇ、人造人間の味方をして。人類との共存を叶える気はあるの?」
「あなた次第、って言っちゃったもんね。そうだなぁ……」
左手に付着した自分の血液を舐めとると、ミコトが出した答えは。
「多分プルートだけは、始末しなきゃいけないと思う」
「……そっか」
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