Encounter

「なんだと……! 自分で何を言っているのか、分かってるのか!?」


 当然、マーズは動揺と共に怒りも表した。座ったまま前のめりになりミコトと見つめ合う。プルート率いるリベリオンズは和平や停戦の申し入れも一切受け入れず、人類に攻撃を仕掛け続けていた。そんな彼らに『宇宙の白』が渡ってしまったのならば、人類が滅びる事は必定。


「だって私、不公平は嫌いですから。どちらの種族がこの世の中を勝ち取るべきか見極めたいんです」

「本当にお前、敵意が無い本心で言ってるんだな……」

「私が人類を選んだら、全力で味方をしますよ。逆だった場合は全力で敵となって、無事マーズさんの力も発動すると思いますけど」


 対しミコトも前のめりとなり顔を近づけた。マーズはまたしても呆れてしまい後ろに倒れ込んだ。受け止めたソファは鳴き声を出す。


「……プルートの所にも向かうんだな」

「はい」

「だったら一応、万が一襲われた時のために仲間も連れていったらどうだ。人類保護派に所属していて、『色』を持つ人間で手の空いてる奴は……二人しかいないな」

「人手不足というやつですか」


 するとマーズは無言で右手を動かし、灰色のテーブルにホログラムを表示させた。タッチやスワイプ操作で人の顔が写っているアイコンをミコトの方へ近づけている。中には顔写真が存在せず名前のみのものも。


「こいつらが、人類保護派の幹部5人だ。全員『色』の力を持っているが……」

「何か、問題が?」

「まず『緑色』のドボラックと、『ベージュ色』のスキンクァ。こいつら二人は同性のカップルでな。俺達とは敵対した事もあったが、なんやかんやで今は味方だ。だがこの二人は未だに身勝手さが残ってる。言う事は聞いてくれないだろうな。

 そして『茶色』のサターン。こいつは顔写真が無いが、とにかく強い奴だ。おかげで戦況が有利になり、余裕を持てた事もあったが……リベリオンズのメンバー、スタークが卑怯な手を使ったんだ」


 今度はスタークの写真が新しくミコトの前に送られた。普通の人間ならば側頭部に位置する箇所が、全て顔になっている不気味な人造人間スターク。7年前は3つの人格を持って生まれ、後に4つに増えていたが。


「スタークには、現時点で6つの人格が備わってる。その6つ目が問題だったんだ……人格は死んでしまった人造人間から選ばれるらしいが、生前は半人造人間だったコスモが……! スタークの一部として再び現れたんだ!」

「コスモ……かつて人造人間保護派のリーダーとして活躍していましたが、父であるギャラクに殺された人ですね」

「あぁ……俺の友でもあった。同時にサターンにとっても何か、大切な縁があったらしくてな。コスモに似せた人格が突然に現れてサターンは動揺……そのまま攻撃を受けて重症を負ったんだ。今は病院の一室で眠っている」


 やはりマーズは後悔を背負っていた。赤色の髪を掴み、目も細めている。ミコトもそんな彼を見て同情し何も話さずにいた。


「……悪い。最後に、『水色』のラールと『青色』のネプだが」


 しかし次の瞬間、予想外の事態が発生してしまう。部屋の中央奥の壁が突然折りたたまれるように開き、真っ裸の男の子二人が現れる。まだ年齢は二桁にもなっていないような子供。


「お風呂貸していただいてありがとうございますマーズさ…………え、女の人!?」

「裸見られるのそんなに嫌? だったらもっと見せちゃおうよ~」


 恥ずかしがりタオルで局部を隠す男の子は『水色』の髪をしており、そんな彼にちょっかいをかけ続けている男の子の髪色は『青色』だった。先程からホログラムで表示されている幹部の顔と一致しており、ミコトは幼い子供が危険に身を投げている事に驚いている様子。


「やっ、やめてネプ! というか体の触り方もなんかやらしい!」

「ラールが嫌がると、尚更触りたくなっちゃう」


 涙目になっているラールにもおかまいなし。ネプはタオルを引き剥がそうとしているが力は拮抗している。するとミコトは突然立ち上がり、二人のそばへと。


「た、助けてください……」

「続けて?」

「注意されてもやめないよ~……って、え?」

「続けて」


 これにはネプも口を開けて疑問を顔で表していた。ミコトは口角を少しだけ上げて右手の親指を立てる。ミコトの真意を理解したネプは止めた手を再び動かしてラールを好きに扱ってしまう。


「ちょっと!? マーズさん、助けて!」

「あぁ、じゃあ今度は俺が風呂入るから」

「えぇ!?」


 何事も無かったかのように入れ替わりで風呂場に入ってしまい扉を閉めたマーズ。逃げ場が潰され残ったのは、魔獣の様に貪るネプと見守るだけのミコト。と思いきやミコトも気が変わり動き出してしまう。


「お着替えさせてあげよっか」

「ひ、ひぇ……」



 *



 それから30分程経った頃。風呂場の中で服を着たマーズが戻った時には、すっかり場が大人しくなっていた。部屋の端ではラールが体育座りでうずくまり、ミコトとネプはソファに座ってすっきりした様子。


「男として大切なものを……失った気がする」

「思ったよりも仲良くなってたか」


 マーズはドライヤーを使わない。『赤色』の力で微量の熱を頭皮から発生させ乾かしている。加減は絶妙なもので、ヘアスタイルもこれだけで全てが完成する優れもの。


「大体自己紹介は終わったか?」

「おかげさまで。2人ともかわいい男の子で気に入りました。ね〜?」

「ね〜!」


 ミコトは隣に座っていたネプの頭を撫で、ネプは笑顔で対応した。

 ネプの後頭部は少し抉れている。普段はそれを隠すためバンダナを巻いているが、風呂上がりの今は巻いていない。何か事情があると察したミコトはあえて質問せず、親交を深めた後に追求しようと考えていた。

 彼は白いシャツに黒い上着を着用しており、灰色のスパッツは短く、上着で隠れてしまう程。


「こいつらはまだ7歳だ。それでも『色』の力に適応し、今となっては幹部だ。2人もついているなら人造人間達に襲われてもどうにかなるだろう」

「え……この人に着いていかなきゃなんですか」


 ラールは露骨に嫌悪感を示した。くすんだ緑色の上着と紺色の短パンはやや暗い印象だが、ラール自身の髪色が明るい水色のためバランスは取れている外見。


「僕は、人造人間は全員倒すべきだと言ってるのに……お父さんとお母さんを殺した、あいつらを」


 7年前に産まれたラール。しかし彼の生い立ちは壮絶なものだった。彼が持つ『水色』の力は、7年前に死亡したマーキュリーから受け継いだもの。そして彼の父親も、同じくマーキュリー。ラールは親の顔もその眼で見ていない。見たのは、爆弾によって肉塊となった母親の姿だけ。

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