Re:Mars

 約7年前のあの日。コスモやロディ、ユニバースがギャラクと死闘を繰り広げ、プルートがリベリオンズを結成した場面は全て報道されていた。撮影スタジオに乗り込んだユニバース達はまず、番組のスタッフを取り押さえありのままを民衆に届けさせようとしていた。人造人間側の悲痛な願いや、ユニバースを利用していたギャラクの本性を見せびらかすために。

 これが表舞台だとすれば、当時モニター越しに見ていただけのミコトは言わばただの観客。他と変わらない民衆の1人だった。


「これ……本当に起きてる事なの?」


 ベランダで外の空気を吸いながら、10歳の誕生日プレゼントで貰った安価なタブレット端末でミコトは番組を視聴していた。そしてウラヌスとポセイドがギャラクに倒された場面が流れた直後。彼女の住んでいた家は爆音と共に倒壊した。吹き飛ばされはしたがおかげで瓦礫の下敷きにはならず軽傷で済んでおり、一瞬で辺りが焦土になってしまった事にミコトは混乱するだけ。


「え、え……?」


 ウラヌスが人造人間に取り付けた爆弾が爆発。しかしそんな事はミコトには想像もできず、舞う砂煙の向こうに2つの人型をしたシルエットを見た。両親が生きている事を願い、早歩きで近づくも。


「……あ」


 両親は、剥き出しになった鉄骨の串刺しになっていた。彼らの至近距離で爆発が起きたようで、身体は焼け焦げ衣服はボロボロに。ミコトは不思議と涙を流さなかった。自分達家族も人類と人造人間の戦いに巻き込まれた事を実感し、色々な感情がせめぎ合ってしまっていた。悲しみ、怒り、困惑や疑問。


「……あ、れ?」


 両親の死体のそばにころがっていた、人造人間の残骸。これが爆発したのだとはミコトもこの時は思っていなかったが、残骸はとある録音データを流し続けていた。

 それを聞いたミコトは、7年間続いている戦争に対し“様子見”をする事となった。



 *



 コロニー『ブレイズ』に辿り着いたミコトは、人類保護派の本拠地であるマーズの屋敷に立ち寄った。ワープゲートにはもちろん警備員が多数配置されていたが、“人間である”という事だけでブレイズへの立ち入りを許可する体制に、ミコトは疑念も抱いていた。


「そこの者、止まれ」


 屋敷の正面扉に立ったミコトに対し、門番の1人が小銃を脇に携えながら近づいた。


「何が目的だ?」

「マーズさんに会いたいんですが。私の力であれば、今の戦局を大きく変えられる。どちらの勢力につくべきか……その判断のために人類保護派の代表の姿を見てみたいんですよ」

「なんだと?」


 唐突に生意気な上から目線の発言を繰り出したミコトに対し、当然門番は銃口をミコトに向ける。他の門番も3人が集まり、完全に囲まれる形になってしまったがミコトは動揺していない。


「人類でありながらリベリオンズに手を貸すつもりか」

「そうするのかしないのか。判断するために来たんですけど」

「意味がわからん。まずは身分を証明してみせろ」

「家も家族も7年前に消し飛んだので、無理です」

「……連行するぞ」


 門番は銃を下ろしてから言った。腰に下げられていた、身柄を拘束するための鉄のチェーンでミコトの身動きを封じようとしたが。彼らの背後から男の声が1つ。


「待て。俺に会いたいんだろう?」


 いつの間にか屋敷の門の上に座っていた人物は、赤い前髪を中央で分けて額を見せている。赤色の上着は無理やり袖を切断した半袖で、筋肉質な腕が強調されていた。そして右眼の部分には眼帯が巻かれてある。7年前、ウラヌスに斬られてしまった右眼の傷跡を隠すために。

 彼が元十三神将の1人。現在は人類保護派のリーダーを務める、マーズ。


「マ、マーズさん! この女の子、意味のわからない事を話していて……7年前の爆破事件に巻き込まれたようではあるのですが」

「……そうか。俺がプルートを止められなかったせいで起きたアレか」


 眉を下げたマーズは門から降りて着地した。黒いブーツは使い込んであり傷も目立っている。マーズはなにやらミコトに対し何かを確信した様子で接する。


「名前は?」

「ミコト、です」

「よしミコト。まずは俺から質問だ。お前の持つその力……『白』か?」

「……よく分かりましたね。『星座の白』ですよ。試しに1つ、【サジタリウス】」


 ミコトの右手にはオレンジ色の粒子と共に弓矢が現れた。門番達は突然現れた武器に警戒するが、マーズはピクりとも動かずに話を続ける。


「お前ら落ち着け。ミコトは俺の姿を見つめていても身体を動かしている。敵意は無いんだよ。それにしてもオレンジ色の弓、か……」


 マーズの【仮面】。それは対象がマーズを見つめた後、対象に見つめられた事をマーズ自身が認識すると、対象はマーズに対する敵意を含んだ行動を一切取れなくなる能力。

 つまりミコトはマーズに対し敵意を持っていない。


「とりあえず、俺に着いて来い。その『白』についても詳しく聞きたいんだ」



 *



「ここが人類保護派の応接室だ。まぁ、元々は人造人間保護派のアジトだったんだけどな……」


 マーズに案内された先にあった部屋。中央には灰色の四角いテーブルが設置してあり、そこには向かい合うように二つのソファも置いてある。

 入ってから右に見えるは、珍しくなってしまった紙の雑誌が並べてある本棚。左には簡易キッチンも用意されており。白い照明と真っ白な壁が部屋の美しさを際立てていた。


「やけに小綺麗ですね」

「普通に褒める事はできないのか」


 マーズはソファに疲れた身体を預け、釣られてミコトも向かい側に座った。


「……『星座の白』なんて初めて聞いた。ギャラクは『宇宙の白』の力を持っていたが、ミコトのものは違うのか?」

「えぇ。私がこの力を手に入れた時、色々と分かった事があるんですよ。まず、『白』は12の種類がある。


 他の白への抑止力にもなりえる『虹の白』

 最善と最悪の結果を知れる『選択の白』

 死という概念さえ覚悟できる『予見の白』

 相反する存在を同一にできる『双頭の白』

 民衆の真意も知る事ができる『宇宙の白』

 星と星を繋げられる『星座の白』

 他人への理解を示せる『共有の白』

 自らの欲望を具現化する『人形の白』

 代償を払い対価を得る『創造の白』

 異種との繁栄を図れる『ショーの白』

 人の意思さえ操れる最終兵器『意思の白』


 ただ、最後の『白』の詳細は私にも分かりません。謎です」

「ちょっと待て……とりあえずはお前が『星座の白』を手に入れた経緯を教えてくれ」


 いきなりの情報開示にマーズは戸惑い、ミコト自身も悪手だったと感じ、半年前に現れたロケットから『星座の白』を手に入れた事を話す。


「よく分からない経緯だが……まぁ、本当の事なんだろうな」

「はい本当です。他人の嘘や本音を判別できる能力を持っている人がいれば、証明も楽なんですけどね。あと、これは私の単なる推測なんですが。話して良いですか?」

「言ってみろ」


 半ば呆れた様子で、マーズは頭の後ろで手を組んだ。しかしミコトが直後に話した内容は、彼にとっても重要過ぎる情報。


「7年前、戦いの果てに『宇宙の白』は宇宙空間のどこかへ、ように消えたと聞きました」

「あぁ、それはリベリオンズの一員……スタークが言っていたな」

「先程説明した通り、『星座の白』は“星と星を繋げる事ができる”つまり……

 元々別の惑星に『星座の白』は存在していて、その『星座の白』は7年前にギャラクの元から離れた『宇宙の白』を自らの元へ瞬間移動させた。そう、“星と星を繋げる”強大な移動能力で。そして半年前に現れたあのロケットも、“星と星を繋げる”『星座の白』の力であれば納得がいきます。でもどうして……『星座の白』は今更になってここに来たんだと思います?」

「……見当もつかないな」

「『宇宙の白』を返却しに来た……そう考えられませんか? しかし何かしらのトラブルがあってコロニーに突き刺さる形になってしまった。そう考えると、あのロケットの中には『宇宙の白』がまだ残っているかもしれないんですよ」


 かつてギャラクが所持し、ユニバース達にとって最大の敵として立ちはだかった『宇宙の白』の力。消えたと思われていたその力が、手の届く距離にあるかもしれないという、一筋の希望。手に入れたのならば百人力だと、マーズは考えたが。ミコトは。


「この事は……リベリオンズのプルートにも明かす予定ですよ」

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