ボーナスエピソードその4.スキンクァとドボラックの百合事情

 コロニー『ブレイズ』にあるマーズの屋敷。かつて人造人間保護派の拠点として利用されていた部屋に、スキンクァとドボラックは二人きりの状態で過ごしていた。

 簡易的なキッチンをスキンクァは利用し、ケチャップの匂いと共にオムライスが中央のテーブルへと運ばれる。ソファには既にドボラックが座っており、風呂上がりというのもあって灰色のパジャマを身にまとっていた。


「うお……うまそ」


 白いプレートに添えてあったスプーンに手を伸ばし、ドボラックは無言で食事にありつこうと試みた。しかしスキンクァが右手でスプーン全体を鷲掴みにしてしまう。


「“いただきます”って言わなきゃダメでしょ」


 ゴミを見るような目でスキンクァは見つめている。人前では強気なドボラックも、この状況では怯える結果となった。


「わ、悪い……次から気をつけるから」


 小声で恐る恐る謝罪を送っていた。するとスキンクァはスプーンを奪い取りオムライスの中心部へと突き立てた。素早く唐突な行動にドボラックの身体は跳ねる。


「……約束だよ?」


 ベージュの前髪で隠れているはずの右眼からも、鋭い眼光は感じられる程の威圧。当然ドボラックは指先さえも動けない。スキンクァはオムライスを掬い開いたままの口へと誘った。


「い、いただきます……んぅ」


 半ば無理やり突っ込まれた食事に思わず声が出てしまっている。


「よく言えましたぁ」


 その後も次々とドボラックの口へと放り込んでいく。元々大した量では無かったため5分程で平らげる事には成功した。


「……美味かった」


 お礼を返してはいたものの素っ気なく、今度は頭頂部の髪の毛を鷲掴みにされる。


「“ごちそうさまでした”は?」

「ごっ…………ごちそうさまでした」


 これも怯えた様子で。しかしスキンクァの目はしっかりと見つめ誠意は感じられた。すると掴まれていた髪の毛の束縛は緩み、わしゃわしゃと撫でられ始める。


「いい子いい子……それじゃあ後片付けするから」


 無駄のない動きでスキンクァは食器の片付けに取り掛かり、2分も経たずに皿は食洗機へと放り込まれた。ベージュ色の力は肉体を活性化、神経を適切に動かす事ができるため、常人よりも効率の良い作業が可能となる。


「……ねぇドボラック」

「なんだよ?」


 振り向き身体を向き合わせたスキンクァは、不気味に微笑んだかと思うと衝撃の一言を言い放つ。



「さっきの料理にね……ヘンな気分になるおクスリ入れちゃったんだ」

「え……!?」



 同時にスキンクァはねっとりとドボラックに近づき、戸惑い震える右頬に手を差し伸べる。


「ふふ……こんなに赤くしちゃってカワイイ。あんな親より、私がドボラックのお母さんに相応しいんだから……身の回りのコト、全部してあげるからねっ」


 ドボラックの両親は毒親、というよりかは何もしない育児放棄だった。兄であるユニバースが唐突にドボラックを殺害しようとした事により、『この子も親である私達を殺そうとするんじゃないのか』などという不安から膨らんだ的外れの妄想。何もされなかったドボラックは、他人に何も期待しないようになり、何者にも敬語を使わず尊敬もしない性格になってしまった。


「スキンクァだって……死んだ妹とオレサマをまだ重ね合わせてんのかよ」


 スキンクァはごく普通の家庭で育っていたが、暴れた人造人間によって妹が殺され両親も意識不明の重体。その時のショックから人造人間を恨み、十三神将にまで上り詰めた。しかし同時期に十三神将になっていたドボラックを妹と重ね合わせ、アタックをかけカップルとなった。


「もちろん。私と一緒にやりなおそ? それと、本当はおクスリなんて入れてないよ。どうする? 途中でやめちゃう?」

「…………最後まで、お願い」

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