Mercury
「コスモとの約束……まだまだ協力なんてし足りない! 人類と人造人間の共存という、あいつの夢を……叶えるって約束を! 俺は果たさなきゃいけないんだよ!」
マーズの元へドタドタと走り、向かってくるスターク。彼らは一体化したばかりであまり体のコントロールが効かず、走る速度も控えめ。しかし傷を負ったマーズを捕まえる事に関しては、今の状態で充分。
「体の制御は俺に任せとけよー?」
スタークワンが呟いた途端、体の姿勢が瞬時に正された。
「ふむ……ならば任せるとしよう」
スタークツーは口角を上げ、反対側である左側頭部に面したワンの方に目線を向けた。
「なら、僕があの人を見つめています。僕達三人は一心同体。それは見ている風景も同じという事です。つまり僕達からは観ているけれど彼からは観られない。あの人の【仮面】も、ワンを見つめていなければこの体には発動しない……。ワン、あなたは自分の顔を見られないように体を動かしてください」
スタークスリーは冷静に自分の作戦を伝えると、ワンとツーは少しの困惑の表情となった。
「へー……お前なかなか頭回るんだな」
「ワンは体を動かす、スリーは作戦を練る。ふむ……私はこの美しい顔で敵を魅了すれば良い! という訳だな?」
「まあ、好きにすれば良いと思いますよ」
半ば呆れた声色のスリーだったが、他二人の士気を上げている事に変わりはない。動きが機敏になったスタークを前に、マーズは両手に炎を宿していた。
「来い……! プルートを止められなかった責任は俺が取る!」
すぐそばまで近づいてきていたスターク。その胴体目掛けて、マーズは思い切り炎を噴射した。プルートには敗れたが、今の彼は後ろで黙り見守っている。真正面ならこの程度の人造人間には勝てるかもしれない、そうマーズは考えていた。
「燃えろっ!」
マーズの思惑通り、スタークの体は炎を受け止めた瞬間に立ち止まった。このまま噴射し続け溶かし尽くそうと、彼はスタークの胴体に直接手を触れようとした。
しかし、その瞬間。
スクラップを詰め合わせたスタークの左腕が動き、マーズの腹部に打撃を与えた。
「なっ……!」
メリメリと音を立て、マーズのあばら骨と内蔵が傷つく感触をその左手は味わった。直後にぐっと力が入れられ、4メートルほどマーズは吹き飛ばされた。
「まさか、体の制御をワン一人だけに任せ続けていたとでも思っていたんですか?」
スタークスリーが嘲笑う。しかしマーズは痛みに悶え苦しんでいたため話は頭に入っていない。
「俺が普段は動かして、いざという時はツーに任せるって感じかー?」
気だるそうにワンは頭を掻きながら余裕の表情。ツーは傲慢の笑顔を浮かべていた。
「ぐっ……あぁっ……!」
右手で腹部を抑えたマーズだが、同時に口からは血が吹き出る。身体はスタークの方を向き抵抗の意思は感じ取れるものの、震えておりまるで産まれたての小鹿。
スタークの方はというと、今度は右の掌をマーズへと向けていた。その中心には小さな穴が空いており、見るからに何かの発射口の様。
「この私直々に引導を渡してやる……! 礼などいらない、誇ってもいいぞ?」
すると発射口に灰色のエネルギーが溜まっていく。ツーの発言と同時に開始されたそれは、ロッドから放つエネルギー弾とほぼ同じ。しかし殺傷能力が強化され、弾丸の周りには電気らしきものがパチパチと弾けている。
「死ねぇっ!」
その瞬間、灰色のエネルギー弾は勢いよく発射された。反動でスタークの体は少し反れたが、狙いにブレはない。
「避けきれない……!」
マーズは諦めかけてしまう。もしスタークを倒す事ができても、後にはプルートも待ち構えている。自身の死は確定していた事だと、改めて絶望していた。
マーズの頭部目掛けてエネルギー弾は飛んでいく。しかし、辺りの空気を切り裂いて進む弾丸がマーズへと辿り着く直前だった。
突如現れた薄い板状の氷によって、エネルギー弾は防がれた。二つは相殺し、お互いに砕け散る。
唐突な防御に驚いたマーズとスターク。するとマーズの背後の方から何者かの声が発せられた。プルートも含めた全員が声の主に視線を向ける。
「……いきなり呼ばれたかと思ったら、なんだこの状況は? 説明してもらおうか、プルート」
その男は水色のボサボサした髪の毛をしており、うっすらと髭も生えていた。眠たげな表情と毛玉や毛糸が散らばっている服からは怠惰な印象を植え付けてくる。
「来たね、“マーキュリー”」
「お前……なんでここに!?」
「あの人が『水色』の……」
プルートとマーズは彼の事を知っており、スタークの三人も造られた時に彼の情報も流し込まれていた。
マーキュリーはマーズの前まで歩き、彼を庇うようにプルートとスタークを睨む。しかし彼らは怯まず、動揺もしていない。
「さっきプルートに呼ばれたんだよ。『ブレイズ』の巨大スクリーンの前に来い、ってな。全く、もうすぐ結婚記念日だっていうのに」
「まさかこんなにも素直に従ってくれるとは思わなかったけどね」
鼻で笑い挑発したプルートは、レンガの花壇に座りくつろぎ始める。しかしマーキュリーはそんな彼に理由を問い詰めたかった。
「なんで俺を呼んだんだ?」
彼はマーズ達よりも一回り年上。しかし声はやや高い方だ。
「……ここには『灰色』の僕に、『紫色』のスターク。それに『赤色』と『水色』の君達だ」
「俺は理由を聞いてんだぞ?」
「僕はその理由を話しているんだ。しないでもらえるかな、邪魔を」
割り込んだマーキュリーに反撃するような、食い気味の発言。これにはマーキュリーも黙りこくってしまう。
「話を続けよう、ここには4色だね。そしてあの撮影スタジオには『白』のギャラクに『ピンク色』のコスモ。それにロディの手に渡った『黄色』と、ポセイドとウラヌスの『青色』と『オレンジ色』……これも合わせて9色」
「…………」
マーズとマーキュリーはまるで言いなりの様に何も喋らない。この説明を聞き逃すわけにはいかない、そんな気持ちになってしまっていたからだ。
「加えて、『ベージュ色』と『緑色』のスキンクァとドボラックは戦闘不能。『黄緑色』のジュピターが次に起きるのは二年半後だ」
「それがどうしたって言うんだ……?」
袖で血を拭き取ったマーズが聞くと、ニッコリとプルートは笑顔になった。
「誰にも邪魔されないって事だよ……コスモ達の邪魔をね」
それを聞いたマーキュリーは歯ぎしりをし始める。まんまとプルートの誘いに乗った自分への恨みから。
「“十三神将”に対抗できるのは同じ“十三神将”くらいしかいない……無駄な邪魔をされたくないから、俺を呼んだって事か!?」
「正解だよ。まあ、スタークに君も殺させるためっていうのもあるけど」
「まーったく、人使いの荒いやつだなほんと」
ワンは軽く笑ったが、マーズとマーキュリーは険しい表情。自分たちのせいでプルートの思惑通りになるという事に、苛立ちを隠せていない。
「あと一人、『茶色』のサターンもいるけど……姿を明かしていないからねあの人は。カメラがある撮影スタジオには入らないだろう」
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