Division
コスモの母親。つまり、僕が見ていた記憶の主という事でもある。額にある銃痕も、ギャラクに撃たれた時のものと考えれば納得がいく。
しかし本人には既に意思など無く、ただ命令に沿って動いているだけ、という印象を受けた。
「母さんは死んだはず……なのに、それを利用したっていうのか!?」
するとコスモは怒りの表情へと変貌し、ギャラクに近づいたかと思うと胸ぐらを掴んだ。だがギャラクは動揺する事も、抵抗する事もない。
「そうだ。言っただろう? 人造人間は人間の道具であるべき……自我なんて、いらないんだ」
ギャラクのその挑発じみた主張を耳に入れたコスモは次の瞬間、右の握り拳を自分の父親へと振りかざした。
しかしその拳撃はギャラクの左手で防御され、二人の腕は力が相殺しプルプルと震え始める。
「以前はちょっと人造人間が嫌いって程度だった……なのにいつからか、迫害するまでに嫌っていた……。どうしてなんだよ!?」
「……お前達人造人間のため、でもあるんだ」
答えになっていない答えを返されたコスモは、やはり納得していない様子。僕もそうだ。ヴィーナスの記憶でも同じ事を聞いたが、迫害する事が人造人間のためになるなんて意味不明だ。
「……やはりこちらも力で抵抗するしかないな」
するとギャラクは僕達全員を睨んで言った。『宇宙の白』の力はコロニー全体の支持を反映するとは聞いているけど、どんな能力を持っているかは分からない。
「まずは10%……【ウェイクアップ・ラヴソウル】だ」
そのギャラクの声が聞こえると同時に、彼の頭上に丸い氷塊が突如、水色の光と共に出現する。そして呆気にとられた僕達を嘲笑うかのように、その氷塊は爆発した。
氷塊は氷のつぶてへと役割を変え、人質を取っていたウラヌス以外のコスモ、ポセイド、僕とロディに向けて炸裂した。
「うわっ!」
一瞬走り出すのが遅れたが、撮影機材の陰に隠れる事で無傷で済んだ。だがその機材が壊れる音ははっきりと聞こえ、二度目は無いと思い知らされる。まさか今のは、『水色』の力?
「他の皆は……?」
同志の無事を確認すべく、辺りの様子を見回す。どうやらギャラクは番組スタッフには当たらないように絶妙なコントロールで操っていたらしい。
「う、うぁ……」
視界の右端にロディが座り込んでいた。彼の近くには気絶したスタッフが倒れていたためロディにも負傷は無かったが、圧倒的な力の差に戦意を喪失しているようだ。
「ったく、なんだぁ今のは? やる気あんのか!?」
視界の左端で余裕の表情を見せるのはポセイド。どうやら氷は全てサーベルで切り裂いていたらしい。
「親父……!」
コスモの身体全体に氷のつぶては突き刺さっているが、血液などは全く見受けられない。これは恐らく……
「お前の【ワイルド・ファング】は生命の無い物の時間を止める。つまりお前には不意の攻撃以外には、武器の攻撃は一切通じない。……息子ながら、厄介な力だ」
予想通りコスモは【ワイルド・ファング】を使用していたみたいだ。しかしギャラクとコスモの位置はいつの間にか離れている。【ワイルド・ファング】を使っている間に距離を取られたのだろう。
「人間の、道具……?」
すると突然、ウラヌスが呟いた。体は怒りで少し震えている。
「自我なんて、いらないって……?」
僕には後ろ姿しか見えなかったが、勢いで人質に取ったカメラマンを傷つけてしまわないか心配になってしまう。
「オレっち達は道具なんかじゃない……! みんなそれぞれ意思を持った、立派な生き物なんだ!」
「…………その意思こそが、問題だというのに」
相変わらず理解のできない返答をするギャラクに痺れを切らしたのか、今度はウラヌスが僕の方を向いた。
「……ごめんユニくん。ここ変わって? オレっちはこいつを許せない……! カイルスと同類のこいつを!!」
怒りをあらわにしたウラヌスはギャラクの方へ走り出す。彼からのお願いを叶えるべく、僕はカメラマンの元へ駆け寄りカプセルを変形させ、背中に密着させる事で脅す。
「ごめんなさい……でも言うことを聞いてくれれば殺しは、しないから」
カメラマンの耳の近くで呟く。このロッドには殺傷能力なんてほぼ無いが、脅しには充分だ。
「ヴィーナス、お前はコスモを殺せ」
突然ギャラクが口にした言葉。ウラヌスが迫ってきているというのに余裕でそれを発していた。すると命令に従う形でヴィーナスは再び動き始め、コスモの方へと体を向けた。
「っ……残念でした!」
ヴィーナスを意のままに操ったギャラクに対して更に憎しみが増したウラヌスは、これまでに聞いた事の無い程に怒りが混ざった決め台詞と共に、ギャラクの背後へと瞬間移動する。
「喰らえっ……!」
ウラヌスの奇襲は見事決まり、ギャラクの背中には双剣による、横を向いた二つの切り傷ができた。しかし彼の余裕は崩れる事なく、ゆっくりとウラヌスの方に振り向いた。
白い床には黒いスーツから垂れた真っ赤な血がポタポタと落ちるも、当の本人は痛みを顔に表してなどいない。
「これだから……感情のままに後先考えず動く奴は。20%、【ひっぱり愛】だ」
今度は20%の力……? さっきの様に僕にも危険が迫ってくるかもしれないが、幸い今は人質を取っている。
次の瞬間、身構えたウラヌスの目に映ったのは、緑色の風だった。それはギャラクの背中から生み出されたかと思うと、ウラヌスの反応速度を超えるスピードで放たれた。
「させるかよっ! 『
だがウラヌスの額に風が辿り着く直前で、細い水が横槍を入れた。その水によって風は勢いを無くし、ウラヌスの体に降りかかる頃にはそよ風程度となっていた。
「ポセイドォ……」
「悪ぃが俺はお前の嫌う人造人間じゃない! 精神ダメージなんて無いぜ?」
攻撃を防いだのはポセイドだった。煽りながら壇上に上がり、ウラヌスの隣に立つ姿はやはり頼もしい。
「まぁ良い。お前達二人の相手を私がする。……コスモ、お前は母親に殺される恐怖を味わって死ぬがいい」
機嫌を取り戻したギャラク。しかしコスモへは視線すら向けていない。対照的にヴィーナスはコスモへと近づき始めた。
「母さん……!」
自らの母親が命令のままに殺意を込めたような行動をする事に、やはり困惑し一歩も動けていない。僕は今人質を取っているが、コスモを助ける事が先決のような気がしてくる。
ヴィーナスは元々普通の人間だったが、幼い頃から身体が弱く障害もあったため、15歳の時に体の一部を機械に変え、半人造人間となった。
そんなヴィーナスを、コスモは母親として強く尊敬していた。機械や人間なんて関係なく、平等に親切心を持つヴィーナスに。しかし父親であるギャラクは人造人間を初めとした機械を少し嫌っていた。
結婚した理由はお互いを良く知り、人造人間と人間の隔たりを無くす事……それだったというのに。ギャラクは『宇宙の白』の力を得た時から、人造人間への偏見や憎しみが激しく増幅した。
その理由なんてものは、この場にいる中にはギャラク本人しか知りえない。
「くっ……!」
コスモは体の震えを拳を握る事でなんとか抑えるも、声の震えは止まっていなかった。
【ワイルド・ファング】を使えるコスモを殺す方法。不意打ち以外には肉体で殴る蹴る、など生身の暴行のみ。
つまりギャラクは自身の妻に、自身の息子を殴って殺せと命じたという事。その無慈悲な事実にコスモは怒りと悲しみによって、その場から動けなかった。
「俺は……どうしたら……!?」
そんな悶えるコスモに見向きすらせず、ヴィーナスは両手から黄色の雷を撃ち放った。迫り来る二つの雷撃を見つめながら、コスモは思った。
このまま死んだ方が……楽になるのか?
目を瞑り覚悟を固めた。マーズ、ロディ、ウラヌス、プルート。そしてユニ。今まで付き合ってくれた仲間達。
悪いけど俺は……ここで、終わりだ。本当に、ごめん。
死。その事しか頭に無かった。今の状況は地獄そのものだったから。しかし何故か……いつまで経っても俺の体に雷は辿り着いていない。
不思議に思い、目を開けると────
「……ダメだよ、コスモ。ボクはまだ……コスモと一緒に生きたいから」
身体を震えさせながら、カプセルを変形させたロッドを握るロディ。右の雷を彼が防いだ。
「僕もだよ。それに、僕の体の記憶に隠された真実……明かさないといけない」
白い床に足をしっかりと立たせ、ロッドをヴィーナスへと向けるユニバース。左の雷は彼が防いだ。
「二人とも……!」
僅かながら、俺の心に生きる気持ちは復活した。素晴らしい仲間二人が、目の前で発破をかけてくれたのだから。
「ギャラクはポセイドとウラヌスに任せておいて……僕達三人はコスモのお母さん、ヴィーナスを倒そう……! 全てが終わったら、ミルクレープを食べに行こう? コスモの、好物だったでしょ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます