Guard
「今から私は……あなた達二人を始末する……! ユニバースとウラヌスも、きっとドボラックに消されてるでしょうね……」
「プルートだけじゃなくて、俺も入ってるのか……」
プルート、マーズの二人のスキンクァとの距離はおよそ10メートル。この程度ならばプルートは自身の【イン・サイレンス】によって瞬時に距離を詰められるが、彼はマーズの事も気にかけていた。
「教えてくれるかな? 僕だけじゃなくてマーズも襲う理由を」
右腕の補助パーツから創り出された剣をスキンクァへと向け、威嚇も兼ねて発言を繰り出す。
「そりゃ、マーズも『人造人間保護派』の人間だから……。それだけでも理由は充分でしょ?」
するとスキンクァの頭上から再び針状の物体が二つ、地面に堕ちる。プルートはそれが放たれた場所を確認しようとしたが、見上げた時にはコロニーの天井に映る
「……本体は他にいるのか」
僅かな声量で呟くプルート。彼の言葉はマーズには聞こえていたが、スキンクァには届いていない。
針状の物体二つはまたしてもスキンクァの姿へと変形し合計三人。新しく現れた二人はプルートを見つめ、中央に立つ一人は後ろでぐったりしていたマーズを視界の中央へと導いていた。
「面倒臭いな。マーズを守りながら、というのは」
少しのため息をついた後、プルートは背後のマーズを視界の右端に入れる。
「さあ、三人がかりでも構わないよ」
プルートのその台詞を聞いた三人のスキンクァは、一斉に右腕を針状の物体と同じ形へと変える。
「……この“トカゲ”の前では、あなたの様な精鋭でも……歯は立たない!」
「なるほど、その尻尾の様な腕は“トカゲ”という名称か」
冷静に名前を確認しているプルートとは対照的に、三人のスキンクァは同時に走り出す。
「拝見させて貰うよ、お手並みを」
プルートは両腕の剣を構え、カウンターを仕掛けようと神経を尖らせる。彼の目には三人以外、何も認識していないような状態だ。
「死ねぇっ!」
先頭を走り突撃したスキンクァの一人だったが、彼女の視界からは突如プルートが姿を消す。次の瞬間、彼女の上半身と下半身は永遠の別れを告げる事となった。
「ギィャアッ……!」
前を走っていた自分が撃破された事に驚いたのか、二番目のスキンクァも足が止まってしまう。その瞬間もプルートは見逃さない。
「フガァッ!」
二番目のスキンクァは腹部を剣で貫かれる。しかし剣の姿やその持ち主の姿は確認する事ができず、彼女はただ困惑していた。
「なるほど、光学迷彩?」
「……バレたか、でもね」
最後尾のスキンクァはプルートの仕掛けを見抜いたが、時すでに遅し。二番目のスキンクァを貫いた剣が小銃へと変形し、一気に銃弾は放たれる。
「オゴアッ……!」
見事に銃撃は全弾命中し、最後のスキンクァも地面へと倒れた。
「やった……のか?」
マーズは目の前に倒れ込んだ上半身だけの女を見て呟いた。しかしプルートは依然として警戒を緩めていない。
「いや……新しい二人を上から落としてきた本体がまだいるはず。それに彼女らの動きはかなり大雑把だった……恐らく、どこかから僕達を監視しながら分身を動かしているんだろう。ポセイドの【冷たい
「……そうか」
プルート一人だけで充分だとマーズは感じていた。しかし、突然上半身だけになったスキンクァの“トカゲ”が肩からちぎれる。
「なっ……!?」
一秒も経たずして、“トカゲ”は人間の形へと変貌する。直後にマーズに襲いかかるが、彼は体を派手に転ばせる事で九死に一生を得た。
「くそ……なんなんだこいつ?」
「自切、だろうね恐らくは……尻尾はキレても、この数じゃキリがないけど」
「こんな時にヘタな洒落言うヒマはないだろ……?」
*
船内にて、ドボラックと僕は睨み合いを続けていた。脇腹に受けた風の弾丸による痛みを堪えながら。
「そんな生意気な上目遣いされると……ますますいたぶりたくなるな?」
挑発を続けるドボラック。だが今はそれでいい。今は僕があいつの気を逸らすんだ。
「そりゃあそうだよ。そりゃあ目が離せないよ。これから僕達にやられる君が、哀れ過ぎてね!」
僕も挑発し返す。これが効果抜群ならば、きっとドボラックは僕に襲いかかってくるはずだ。
「……この状況でもまだそんな戯言をほざけるとはな……。世間知らずのバカが!」
「世間知らずのバカは……どっちかな!?」
まんまと乗っかってくれた。嬉しさでこっちも煽り返す。僕が時間を稼ごうとしていた理由、それは……
「残念でした!!」
次の瞬間、ドボラックの背中をウラヌスが双剣で斬り裂いた。
「ぐおおっ……!?」
ドボラックは完全に油断しきっていたようで、何も抵抗などできず転がり込む。
確かに僕はウラヌスに危機が迫っていると感じたが、それは早計だった。ドボラックが風に吹き飛ばされた僕の方を向いた瞬間、ウラヌスも僕の方を向いて笑みを浮かべたんだ。同時に、破壊された部分も瞬時に修復を始めていた。
つまりウラヌスにとってあの程度は軽傷。こうして僕が注意を引き、叫ばせた事でドボラックを仕留める事に成功した。
「これで決着はついた……」
僕はポセイドの船員を縛ったものと同じ鉄のチェーンを取り出し、ドボラックへと投げつける。
これで終わりだと、ウラヌスもそう思っていたはずだろう。
「言ってなかったか?」
ドボラックは体を動かさずに言い放った。突然の言動に僕は驚き一歩も動けない。彼女へと飛んでいく鉄のチェーン。しかしそれはドボラックの体に辿り着く直前で、突如吹き荒れた強烈な風によって粉々になった。
その風は僕達二人にまで影響を及ぼし、さっきの風とは比べ物にならないほどの威力で吹き飛ばされる。
「うっ……!」
ウラヌスは無事に着地していたが、僕はそうもいかず硬い床に身体を叩きつけられる。
「言ってなかったかって聞いてんだよ……“一番イラついたのは、オレサマの体に傷をつけた事”だって」
ドボラックは血が滴る背中の傷を見せつけながら、首だけを回し視線を向けてくる。まさか、ドボラックの能力は……!
「オレサマの能力【ヘル・オア・ヘブン】はな、“自分が怪我をした規模に比例して、自分が放つ風の威力が上昇する”ってチカラなんだよ!」
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