夢から覚めたい

やちみよ

夢から覚めるとき。


 嫌な予感、なんてものは外れるもので。

 同棲してからたまに彼女が前日に告げた帰宅時間になっても帰ってこない時には、もう事故にでもあったか、なにかトラブルが起きたかなんて考えてしまう。


 だが今日だけは違った。

 誕生日と仕事の日が被ってしまって、誕生日くらい私と一緒に居たいなんて言ってくれたから。


 きっと早く帰ってくるだろうな、って。

 胸を踊らせながらいつもより気合いをいれて料理をして。

 ケーキも自分でつくって待っていた。


 彼女が再びこの家に足を踏み入れることはなかった。

 それどころか。

 三十六度を失った彼女とはもう、キスも会話もできないのだ。


 あなたのいない夏がくるんだなぁ。

 蝉の声がいつもはうるさく感じるのに、今はそんなものを考える隙間すら残ってないな。


 一番傍にいた人が、一番遠くに行ってしまった。


 君は帰ってこないのか。

 それでも毎晩二人分ご飯を作りたくなる。

 誰もいない部屋にただいま、とかいってきます、とこぼす。

 道に咲く花のや、美しい空を写真に撮ってあなたのためにフォルダにいれておくのだ。


 私がそっちに行ったとき。

 しわくちゃになった私を支えておくれ。

 君に見せたかったもの、聞かせたかったものをいっぱい持っていくから、一緒に語らおう。


 布団に体を埋め、この夢から逃げるように眠りについた。

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