幕間 レジ打ちの女性

「暇だなぁ…」


女性は退屈していた。

金曜日夕方。ここはスーパーの店内。

オフィス街と住宅街の間の半端な場所にあることから、客入りはそれほど良くない。

女性はそこでレジ打ちのアルバイトをしている。


「まあ、私はバイト代貰えれば良いけど、こんなに暇だとお店潰れないか心配。今日もお客さん少ないし、早上がりになりそう…」


この女性は普通の大学生だ。

苦学生と言うわけではないが、何かアルバイトがないと学生生活は厳しい。

早上がりさせられても給料は減らないものの、バイト先が潰れるのは非常に面倒と言った状態だ。

しかし、広い店内に対して客入りは少ない。


「はぁ…」

女性は小さく溜息をつきつつ店長を見遣る。

店長は何やら見たことない瓶を陳列している。


「また変なもの入荷してる…急にレジに来るとびっくりするのに…」

女性の小さな悩みの一つだ。


「…あんな変なものでも買っていく人いるのよね。いつもこの時間くらいに買いに来るっけ?前は確かクジラ肉や大きな豚肉を買っていったかしら?…買っていく人がいるなら並べてても良いかな?」


と思っていると店内に入店音が鳴り響く。


「いらっしゃいませ」

と言いつつ、入り口を見ると件の男が入ってきた。


「あ、あの人だ」

女性は男を目で追う。

男は調味料の陳列棚の方へと消えていく。


「今日はやけに思い切りが良いのね。いつもなら行ったり来たりして悩んでいるのに。多分、献立を考えながら選んでいるんでしょうけど。…私も料理できるようにならないとなぁ」


暇過ぎて女性の思考はクルクルと移る。

この女性は料理をせず、大体は外食か惣菜で食事を済ましている。

そのため貯金もできないが、料理=難しいもの、という認識があり、始めていない。


そう思っているうちに、先程の男がレジに来た。

粒入りマスタードの瓶だけ持っている。


「え?今日はあれだけ?」

女性は思った。


店の売上を心配している矢先にマスタードだけを買いに来た男に対し、女性は、

「いつもならもっと買ってくれるのに…」

と、理不尽にガッカリした。


ふと、

「今日はこれだけなんですね」

と声を発してしまう。

瞬間、女性はやってしまった、と思った。

勝手に沢山買うと勘違いしていただけなのに、これでは嫌な店員ではないか、と。


しかし男は一瞬驚きつつも、

「ええ、上司からソーセージをお裾分けで貰いまして。今日の晩酌はそれにしよう、と」

と朗らかに答えた。


女性はホッとしつつ、会計を済ませて、

「それは良かったですね。ソーセージってお酒に合いますよね」

と若干取り繕いながら返した。


男が店を出た後、女性は、

「今日の晩酌ってことはいつも晩酌のために自炊してるのか…料理ってそんなに気軽にできるものなのかな?」

と少し興味を示していた。


店は相変わらず閑散としているが、女性の気は少し紛れていた。

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