第14話 呪われた鬼の剣
イーナはそこに尻餅を着いてしまった。その脇をベイクが歩いていく。
「立てよ」ベイクの背中は怒りに満ちていた。
「くく。中々良い蹴りだぜ。立てねえ」
そう言いながらサージは立ち上がり、刀剣で斬りつけた。
しかし、刃はベイクの数ミリ横の空を切る。その刹那にベイクの拳がサージのみぞおちの辺りに入る。1番下の肋骨が折れる音がした。
サージは音もなく脇腹を押さえて悶絶した。もう手には刀剣は無い。膝を付いたサージは半笑いで言った。
「お前、あの聖堂を見たのか?お前らなんぞ25匹の胃袋のおやつにもならんわ。あいつらがどれだけ食うか知ってるか?」
「人食い悪魔に仕立て上げて、殺した森の住民はどうやって見つけた?」
「もうじき餌が欲しくて起き出す頃だろうよ」
「お前の与太話はいらん。あの化け物はどうやって手懐けた?」
「そーゆう言い方をする奴には...」
ベイクの拳がサージの鼻骨をへし折った。鼻血が溢れ出た。
「あの犠牲になった自警団の連中は事を知っていたのか?」
「知る訳ないさ」鼻を押さえながらも笑っていた。「あいつらは農業しかした事ないからな。あの人外どもの狩りは喜んでしていたよ。お、音が聞こえるな。そろそろ起き出してきたぞ。俺の血の匂いでもしたかな」
「いや、それは聞いてない。自警団の皆はお前の行為を知らなかった。そうだな?」ベイクは鼻を押さえた手ごと蹴りつけた。手の指が1本折れた。サージは痛がっている様子だったがうめき声ひとつ上げない。その様子をイーナはただ呆然と見ているしか無かった。
サージは大の字になって血塗れで笑い始めた。「食われろ。みんな食われればいいんだ」
「食われはせん」
「いーや、親である俺を失えば何するか分からんぞ。俺が押さえていたんだからな。餌場は人里離れた所でと、キツく教えていたんだ。滅茶苦茶し始めるぞ」サージはもはや立ち上がる気はなさそうだった。
「誰も死なないさ。死ぬのはお前らだ」そう言うとベイクはサージの刀剣を拾い上げる。
「ベイク!」イーナが叫んだ。
ベイクはサージの喉に刀剣を思い切り突き立てると、聖堂へのドアへ歩き出した。
「ベイク、やめて。逃げましょう」イーナはサージが体を痙攣させて生き絶える様になど目もくれていなかった。
「ここから逃げろ。この建物から離れるんだ」ベイクはドアを開けて、出て閉めた。
「ベイク!ベイク!」自然と涙が頬を伝う。一体どうやってあの化け物20体も相手しようというのか。イーナは座り込み、どうすべきかわからなかった。
もってくれ。発作よ、起きないでくれ。
ベイクはまず、ヨタヨタ寝ぼけた翼を持つイモリ頭の化け物を両手持ちした刀剣で真上から叩き切った。頭から首にかけて半分に割れたとかげこうもりは身体を震わせながらその場に沈み込んだ。
聖堂がざわめき出す。わらわらと寝床から起き出したマダラ鱗が地面に増えて行く。その様はグロテスクと言う他無かった。
しかしベイクは止まってはいかなかった。すでに次に近いとかげこうもりの首をはねていた。そして2匹に囲まれている。空間を理解しようとした。支配しようとした。何がどこにあり、どいつが自分に近いか、どう斬り込むか。まだ心臓は正常だ。
アレルギーが起きれば泡を拭いて倒れてしまう。
2匹同時に噛み付いて来る。ギリギリで寝転んで腕を振り回して足をかき切る。違う奴が上に被さってきた。腕を手の爪で押さえつけられ出血する。噛み付かれそうになった瞬間左手から出した石のナイフで首を切り、腹まで裂いた。そいつを掴んで立ち上がり、盾にした。他の者が襲いかかって来て、その仲間ごとぶつかって来る瞬間、皆から見えにくい角度に入り、2匹仕留めた。
脳が揺れたような気がした。倒れそうになり、足で支える。来た。
とかげこうもり達はたじろいだ。頭は良くない様だが、恐怖というものはあった。
7年剣を振るっていなかった。7年振り、5回目の発作。でも、多分1番長い時間我慢している。死ぬかも。知った事じゃない。
1番近い奴の腹を真一文字に掻っ捌いた。内臓が零れ落ちた。全員留めはさしていなかった。戦闘不能にしてしまえば、後でとどめを刺せばいい。
怯んだとかげこうもりを、斬った。斬った。戦は幾度となく経験しているから、今がチャンスだと分かっている。恐怖が集団に伝染し、個々が弱まる心理。
もはやベイクに意識は無く、殺意しか無かった。それからの記憶は無い。食いしばった歯の間から泡を拭いていた事も、身体が痙攣していた事も、体がどれ程引っ掻き傷やあざだらけになっていたかも知覚していなかった。
ただ、倒れていくとかげこうもりは、暗闇で目を閉じて活動する人間も居るのかと思いながら死んでいった。
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